【第2回】ムハマド・ユヌス × 大石英司|世界を治す具体策
読みもの|9.7 Mon

  みんな電力について、こちらが驚くほど理解してくださっていたムハマド・ユヌスさん。
 冒頭から再生可能エネルギーの重要性、みんでんがブロックチェーン技術を持っているからこその可能性、そして今、誰もがさすがに感じている、地球が晒されている気候”危機”を抑止する方法について語ってくださった。
 印象的だったのは、世界を震撼させているCOVID-19を、これ以上ないエネルギーシフトの機会と、しごく前向きに捉えてらっしゃったこと。その感覚で、いち早く行動に移している例として挙げられたのは、スウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんに代表される世界の若者たちだった。
 ユヌスさんの視線は常に、社会的弱者に向けられている。しかしだからといってただ無条件に救済するのではない。
 大切にされているのはあくまでサステナブルに、それぞれが自立し、自らの力で道を切り拓いていく手助けをするという姿勢。そしてその根幹にも、エネルギーがある。
ー私たちは世界中で猛威をふるっているこのウィルスが巻き起こした自体を、せめてポジティブな機会に転換しなければならないということですね?
ユヌス それで間違いありません。これは千載一遇の機会です。
グラミンファミリーにもエネルギーに関する取り組みはありますか?

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Photo: Yunus Centre/Nasir Ali Mamun

ユヌス 12〜15年前、この国に太陽光のエネルギーを持ち込もうとして、「グラミンエネルギー」という取り組みを実施しました。それはパネルを市民の家の屋根に設置し、貧困層の家に太陽光で発電されたエネルギーを供給するシステムを構築するプロジェクトでした。
 設置コストは、バングラデシュに広く普及しているケロシン(灯油)ランプに使っているお金と同額しかかからないので、実質無料です。もし発電量を増やしたい場合は追加料金を払ってパネルを増やせました。
 最初は25ワットからはじめて、それを50ワット、75ワットと増やせて、100ワットもあればこの国の市民にとっては十分過ぎるほどの電気となります。その結果として、今もバングラデシュにはたくさんのソーラーパネルがあります。
 現在の課題は、パネルの製造にあります。当時から現在に至るまで中国や日本から輸入していましたが、もし私たちが自分でパネルをつくれるようになれば、当然価格は下がります。合わせて送電システムのネットワークもつくれるようになるので、そうなれば自分でつくった電気を売れるようにもなります。余剰の電気を近隣に融通すること、販売することができれば、無駄がなくなります。
ーまさにそこで、みんな電力のブロックチェーンシステムが力を発揮できるかなと思います。
ユヌス それはとても頼もしい技術です。もしブロックチェーンを有効に使うことができたなら、私の頭にあるシェアリングの構想をこの国全体に広げることができます。実際のところ、現状のまま私たちが送電システムをつくることができたとしても、それは近隣の住居10〜15軒ほどの限られた範囲でやりとりができるくらいでしょう。

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去る7月末のある日、コロナ騒動がなければバングラデシュで会っていたお2人の、ZOOM会談が実現したのだった

ー私たちは電力会社ですので、どうしても話がエネルギーのことに終始してしまいがちです。しかし本当は、まったく別の業界、ジャンル、製品にもブロックチェーン技術を使って変革を促せるだろうと考えています。
ユヌス 私にはまだ実際にブロックチェーンを使った経験がないので、詳細はわからないところがあります。しかし「シェアリング」という概念にとっては、大きな可能性を秘めていることと理解しています。ただ、バングラデシュという国としても、過去にブロックチェーンを使ったことがありません。それを専門に学び、勉強する人間が必要です。また「過去に前例がない」ということは、今後大きく伸びる可能性があるということも意味しています。
 やり方として思いつくのは、新しい構造をつくることです。
 私たちは過去に、スポーツに関連する事業をソーシャルビジネスにする「ユヌス・スポーツ・ハブ」や、似たようなコンセプトで「ユヌス・環境・ハブ」というものも設立しました。もちろん新たに「エネルギー・ハブ」をつくることもできます。
 するとそこに専属のスタッフがついて働けるようになり、貧困家庭の救済から始めて、再生可能エネルギーを国全体に広げていく下地ができるでしょう。
 私たちはまだ、化石燃料からの完全なる脱却が実現できていません。ケロシンオイルからの切り替えは進み、それも厳密には化石燃料からの転換と言えますが、次のステップであるエネルギーの切り替えはまだ道半ばです。そしてその転換を実現すべく、ソーラーだけでなく水力、風力など、利用できる自然資源のすべてを活用し、国全体の電気を再エネで賄えるようにしていきたいと考えています。
 もし「エネルギー・ハブ」ができれば、それがあらゆる問題解決の起点となって、例えば日本、バングラデシュ、アフリカでも問題に向き合う機会をつくり出せます。さらにその構造そのものをシステム化できれば、世界各地に持っていけるようになります。エネルギーはいつの時代も、世界のあらゆる国の主たる問題でもあるからです。
 南米では強い風が吹き、風力発電の資源が多くあるでしょう。バングラデシュでは発電に十分なほどの風は、残念ながら吹きません。そのことは逆に、風車を回すほどの強い風がない地域には、微量の風でも発電できる風車を開発するテクノロジーが必要な示唆でもあります。
ー現在バングラデシュは大変な洪水に見舞われているとのことで、心配しています。しかしそれは、水力発電にある可能性を意味しませんか?

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Photo: Yunus Centre/Nasir Ali Mamun

ユヌス あったとしても、とても少ない可能性です。バングラデシュの国土は標高が低く、起伏も少ないからです。水力は高低差の大きいネパールやブータンで、有効でしょう。むしろそれらの国で発電した水力のエネルギーをバングラデシュに供給することの方が、可能性があると思います。

繰り返しエネルギーの重要性と、そこにブロックチェーンが組み込まれるからこその可能性に言及くださったユヌスさん。
次回はユヌスさんと大石さんが言葉を交わし、そこから生まれたワクワクする取り組みについて、公開は9/14(月)です!

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(通訳:鈴木敬子/構成:平井有太)
2020.07.28 tue.
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