【前編】天然資源と文化|島根県の西半分
読みもの|1.29 Mon

江津浄水場太陽光

  萩・石見空港に降り立った時、私たちはその土地に秘められたポテンシャルについて、恥ずかしいほど無知だった。
 島根県と聞いて頭に浮かぶのは出雲大社と、城下町の佇まいが残る松江市、宍道湖のしじみくらい。「萩は、、山口だよな?」と自問しながら、世界遺産・石見銀山のことを空港の名から思い出しつつ、その厳密な位置関係すら把握できてないまま、空港に着いた。
 本記事は東西に長い島根県の、粗く分けて観光地が集中する東半分でなく、西半分に眠る豊かな天然資源と文化的魅力に触れた、1泊2日の島根視察報告である。

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  県の東部と西部は、雲州(うんしゅう)と石州(せきしゅう)とに分けられるという。現代では一般的に出雲地方、石見地方と呼ばれているが、それを雲州、石州と呼ぶ時、その西隣は長州だ。おのずと想起される明治維新と共に、近代の「県」という概念では区切られない、土地の記憶が脈々と受け継がれていることを知らされた。
 結論から言って西半分、石州は再生可能エネルギー(以下、再エネ)の「モデルルーム」、または「博物館」と呼んで過言でない、可能性の塊だった。

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  空港周辺で、車さえあれば半日の間に太陽光、バイオマス、風力、そして水力発電を視察できる利便性と、それらを支える底なしの天然資源。加えて近隣に良質の温泉もあるということは地熱発電が可能であり、これだけすべての発電方法を一つのエリアに密集させられる場所は、国内になかなかない。
 いや、もしかしたら実はたくさんあるから、私たちはそれを具現化しているところから学び、日本そのものが再エネの宝庫であることを自ら証明すべきなのかもしれない。

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  まず私たちは空港からほど近い、2014年運転を開始の、江津浄水場太陽光発電所を訪ねた。その当時で、県の企業局はすでに13の水力と2つの風力発電所を運営していたが、太陽光はここが初めて。それが現在すでに、4つにまで増えている。発電量は年間に437MWh、約120世帯分の電力を賄う規模で、ここまでの話ですでに十分、発電を実現させる豊かな自然の片鱗を感じることができる。
 そもそも島根県は、平成10年度に「地域新エネルギー導入促進計画」、翌年に「地球温暖化対策推進室」を策定している、特に環境意識の高い自治体だ。それが東日本の大震災を受け、さらに本腰を入れて再エネ促進に力を入れるようになったという。

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  次に、しまね森林発電の木質バイオマス発電所を訪ねた。ここでは年間8万6千MWhを発電している。約2万3千世帯の消費電力に相当する電力だ。日本は国土の2/3が森林で、島根県の森林率はそれを超える78%、全国でも3位というから、バイオマス発電が県の主軸となっても不思議はない。それまで未利用だった、1日300トンは出るという間伐材を使い、地産地消と循環する経済を体現するビジネスモデルは、地域社会に新たな豊かさをもたらしている。

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  最後に向かったのは、江津高野山風力発電所
 風力発電は9台あり、それぞれに市内の小学生に付けられた名前が付いている。風電(ふうでん)や風麻呂(かぜまろ)など、「風」の字からはじまる名前が多いが、「海風回る(うみかぜまわる)君」という個性的な名前もある。年間予想発電量は約3.8万MWhで、江津市全世帯の約87%を賄えるという。

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  これらの発電所がすべて、半日の運転で廻れるエリアに共存しているのが、島根の石州だ。まさに「江津市再生可能エネルギー視察コース」として、県内外からの視察や学習の場としてうってつけの現場。終日案内をしてくださった県庁のお2人とは、いっそのこと視察コースのルートまですべてを日本初のソーラーロードにすれば、空港から行くところすべてが発電している世界でも類のない画期的コースとなり、視察団や観光客が殺到するのではと、夢を語り合った。

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  日本海からの風を受けて回る風車が壮観な高野山から市内を見下ろすと、不思議と朱色の瓦が多いことに気がついた。それは石州瓦といって地元の名産品で、海とのコントラストが地中海をイメージさせた。
 危うく意識を持っていかれそうになった南イタリアでなく、ここは出雲、神の国である。この、豊かな自然こそまさに神様のおぼしめしであろうと、島根のポテンシャルに感服した初日であった。

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次週、島根県西半分の文化的魅力をお伝えします。

 

(取材:平井有太)
2017.9.27 wed.
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