【第1回】谷崎テトラ|ワールドシフト・フォーラム
読みもの|1.9 Tue

  あけましておめでとうございます。
 エネルギーをセレクトできてコネクトするポータルサイト「ENECT(エネクト)」、新年の幕開けです。
 2018年最初の記事は、2月4日京都で「ワールドシフト・フォーラム」を開催する、谷崎テトラ氏インタビュー。
 長年、放送作家やジャーナリスト、はたまた大学の教員として、環境についての提言を続けてきた谷崎氏。氏は電力を、みんな電力に替えてくださってもいる。
「オーガニック野菜は環境にいいけど値段も高いということがある。エネルギーは環境にいい上に値段も安くなるので、絶対変えた方がいいですよね」
 そう気持ちよく言い切りながら、多岐にわたる専門領域はエネルギーだけには収まりきるわけもない。「今の資本主義はマネーの資本主義。でも、『資本とは何か』ということを深めていくと『社会関係資本』、『里山資本』、『信頼資本』主義という考え方もある」と、あらゆる方向に有効な示唆をくださいました。
 エネルギーを考えることは経済を、地球を、未来を考えること。
 大きなスケールの中で、私たちがもうすでに担っている重要な役割について、お届です。

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谷崎テトラ(以下、谷崎) 「ワールドシフト」という言葉は聞いたことはありますか?
ーすみません、ありません。
谷崎 「ワールドシフト=WorldShift」は間にスペースもない、ワンワードです。
 世界は今変わりつつあり、変わろうとしている。そういうことに関しての一言で、それこそみんな電力さんがされていることも、エネルギーの分野における「ワールドシフト」。それから、民主主義の領域では「参加型民主主義」へのシフト。社会は中央集権から、分散型やローカルへのシフト。あとはお金の価値観についてのシフトとか、世界では様々なシフトが同時に起きています。
 つまり一言で言うと、今「文明の転換」が起きているんです。
 それは様々な人々が様々な仕事や活動を通じて実感しているんだけれども、それを一言で表した時に「ワールドシフト」という言葉になります。
 僕自身は、放送作家をはじめたのは1990年代初頭で、京都議定書の取材を通じて環境に関心を持ってきて、以来20年間環境に関する番組をつくってきました。「素敵な宇宙船地球号」とか、伊勢谷友介と一緒に長年やっているのが「EARTH RADIO」、「地球グッドニュース」や、メディアもソトコトオルタナといった環境系の媒体で発信を続けてきました。
 でも環境をやってると、友達が少なくなっていくというのがあって(笑)。それは危機を煽ったりとか、上から目線に思われたり、逆に真面目そうに見られたり、「格好つけてるんじゃないか」とかそういうことでなかなか難しい。
 それに危機を煽ってるだけでも人には伝わらないので、2000年頃から「グッド・プラクティス」という、よいアクション、よい方向に向かっている取り組みや考え方を紹介するポジティブな方向性を心掛けています。
 でも実際に環境問題というのは、「地球に優しくしよう」というレベルじゃ間に合わないところまできているんですね。最悪のシナリオをいっている気候変動や、生物にしてもこの20年間で4万種が失われている。
 それを変えるためには、経済そのものを変えないとだめなんですね。つまり、環境問題は経済問題。そう考えると問題は格差、民主主義までいくので、解決策は「環境をなんとかしよう」という個別のイシューではない。そこで「文明の転換が必要」ということになってくるんです。
 リーマンショックが2006、7年、世界の金融危機が起きました。あれは石油資本の投資の流れが変わったことが遠因と言われていますが、そこに経済、金融の流れも全部結びついている。 
 1972年に『成長の限界』という最初の環境危機を唱えた、ローマクラブというシンクタンクがあって、その主要メンバーの一人であるアーヴィン・ラズロ博士が、ブタペストクラブのロンドン会議で、「緊急事態にある世界に対するワールドシフト宣言」として、ワールドシフトの概念を提唱されたんです。それが2009年9月9日でした。
ー『成長の限界』に端を発する文脈が、今にまで続いている。
谷崎 ローマクラブは、いわゆるエネルギーに関心がある人とか、経済系のシンクタンクだったんですが、その後継団体のブタペストクラブのメンバーにはノーベル平和賞の候補の人たちとか、世界の知恵を持った人たちが参加していて「世界賢人会議」とも言われています。ダライ・ラマさん、ゴルバチョフさんとかムハマド・ユヌスさん、そういう方々が参加されています。
 そこで「ワールドシフト」という言葉が出されました。
 我々は発展の方向をシフトしなければいけないし、優先順位もシフトしなければいけない。
 実はもう、地球のキャパシティはオーバーヒートしていて、単純に経済のパイは増やすことできず、例えば日本人と同じ生活を世界中の人がしたら地球は3つ必要だと言われています。アメリカ人と同じ生活には、地球5つ。現状の世界平均でも、地球は1.5〜2個は必要とされています。
ー私たち日本人も、かなり罪深い。
谷崎 ですので、ブタペストクラブが緊急事態宣言として「WorldShift(持続可能な文明への転換)」を宣言しました。
 ラズロ博士は提言の前後に来日されて、僕も講演会に出席したんです。そこでも「地球の危機的な状況」という講義があって、それをただ聞いていても「大変だな」と暗い気持ちになるんですが、博士は講演の後半で「今はワールドシフトの時期なんだ」と仰った。そこから、希望が見えてきたんです。
 今の危機的状況は、文明が大転換するための「きっかけ」としてあると。最近は持続可能な世界、「サステナブル」という言葉がありますが、誰もがそれも聞いて、何となくフワフワと「今の世界が続いていけばいいかな」、「ちょっといいことすればいいんじゃないか」みたいに思っています。でも実際には、今の社会システム、考え方、価値観のままでは「ブレイク・ダウン」のシナリオしかない。

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ーただ破滅に向かっていく。
谷崎 ブレイク・ダウンを「ブレイク・スルー」のシナリオに転換するには、別のかたちのシナリオが必要です。それは、ただ国や国連に任せればいいのではなく、すべての領域が関わってきます。生態系、気候変動、経済、幸福度、仕事、メディア、民主主義といった、これまで20世紀の文明をつくってきた価値観があらゆる領域で変わらないといけない。
 2012年に地球サミットがリオデジャネイロで開催されて、僕ら「ワールドシフト・ネットワーク・ジャパン」もNGOとして参加し、僕自身も副代表として現地に行きました。
ーラズロ博士公認で、ワールドシフトの日本支部もできた。
谷崎 博士に「講演に感銘を受け、何か日本でお手伝いできることあれば」ということをお伝えしたんです。すると「そう思った瞬間、あなたが始めなさい」ということを言われました。
 「これは偉い人、力を持っている人がやるムーヴメントではなく、気付いた人からやるものだ。そういう人は増えている」と。だから、気付いた人たちで関われるネットワークをつくっていこうというのが「ワールドシフト・ネットワーク」なんです。
 ですからこれは、かたちとしてNGOではありますが、予算も事務所もない、ただのネットワークなんです。「ワールドシフト」と言った瞬間にピンとくる人が集まってきて、それぞれに「これが私のワールドシフトです」って。
 そこは、みんな電力だって僕に言わせれば、まさにワールドシフトをエネルギーの分野でやっているものなんですね。

 

次回に続く。
本年度も、コンテンツは基本的に毎週月曜日の更新です。お読みになって、もし少しでも「面白い」と感じたら、是非どんどんSNSで拡散していただけたら幸いです。ENECT記事は、一人でも多くの読者に届けばと願いながらつくっています。

また、来たる2月4日、京都造形芸術大学春秋座にて「ワールドシフト京都フォーラム」が開催されます。詳しくは「ワールドシフト京都フォーラム」の文字をクリック!

 

(取材:平井有太)
2017.11.22 wed.
テトラ・アー写

谷崎テトラ

京都造形芸術大学創造学習センター教授、放送作家。音楽プロデューサー。ワールドシフトネットワークジャパン代表理事。
1964年、静岡生まれ。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ番組、出版を企画・構成するかたわら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の 発信者&キュレーターとして活動中。国連 地球サミット(RIO+20)など国際会議のNGO参加・運営・社会提言に関わるなど、持続可能な社会システムに関して深い知見を持つ。リバースプロジェクトCGL研究員。現在、伊勢谷友介とInter FM 「KAI Presents アースラジオ」(毎月第4火曜21時〜)に出演中

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