写真・左上は染谷さんのご著書『TOKYO油田物語』(一葉社)と、油からできる油田石けん
「東京は大きな油田である」との確信を胸に、前進を続ける染谷ゆみさん。笑顔で仲間を増やしながら、「大都会におけるエネルギーの地産地消」という難問を、天ぷら油で本当に解決してしまいそうな勢いだ。
「TOKYO油田」から、「TOKYO油電力」への移行は、必然的な展開。
2011年の東日本大震災を教訓に、大都会東京の下町から生まれた知恵はまず日本を救い、そして世界にまで飛び火するポテンシャルを秘めている。
これで最終回の、「私たちの台所が油田である」という3回記事、どうか生活の現場まで届きますように。
LOHASフェスタでも発電、回収。「野外イベントのコンテンツご要望の方はいつでもご連絡を」と、染谷さん
ー実際に事業を続けられてきて、やはり東京は大きな油田でしょうか?
染谷 はい。そしてそれは自分の信念と、皆さんの多大なる協力の上で成り立っています。
ーさらには、「TOKYO油田」から「TOKYO油電力」となりました。
染谷 1993年に世界で初めて、使い終わった油からバイオ燃料を開発し、車の燃料として使ってきました。フジロックを始め、
Earth Dayや
LOHASフェスタなど、野外イベントでは発電機に
VDF(植物性ディーゼル燃料)を使うことも増えました。
天ぷら油で発電中
ただバイオ燃料は、油にアルコールを入れて化学反応を起こさないとできません。「もっとイージーに使えたら」と思うのは当たり前です。その時の「そのまま使えたらいいなぁ」という想いが実現して、発電所ができました。
そうこうしているうちに、「ということは、もし、油を出してくださっている皆さんに電気でお返しできたら、『循環型社会』のモデルができるじゃないか!」と閃いたんです。
そうして電力小売自由化の波にのり、「株式会社TOKYO油電力」を起こし、売電事業も始めました。
ヤンマー発電機を使ったSVO発電機(生のままで発電します!)
ー天ぷら油で発電できることは、当初想像していましたか?
染谷 バイオ燃料では車が走るので、発電機に入れて電気にすることの方が簡単でした。しかし、それも軽油の価格だから合うのであって常用の発電所の燃料だとバイオ燃料は価格が高い。ですので、エコ・イベントや環境に配慮する工事現場ではバイオ燃料を使ってくれますが、皆さんに供給する電気はコストが合わなかったんです。
それが、化学反応を起こさず、使い終わった油そのままで発電できる発電機の開発に成功したことで、採算ベースに乗ってきました。しかも一般の家庭では、わざわざ固めるテンプルなどお金をかけて油をゴミにしている状況が実際にあります。
天ぷらバスでエコツアー
ー発電を始めて、まわりの反応はいかがですか?
染谷 「TOKYO油田が油電力になりました!」と言うと皆さん驚きますが、喜んでくれています。「この展開はなかなか見事だね」って。
父は、戦後ゴミ拾いのような仕事だった油屋が「東電に向こうを張るビジネスになるとは」と、とても感心しています。「向こうなんか張らないよ」と言っていますが、きっと祖父も天国で驚いていることでしょう。
ーみんな電力とはどう出会い、どうして一緒にやることにされたのですか?
染谷 再生可能エネルギーを販売するみんな電力さんとは色々な場所で重なることも多く、私たちのお客様も結構重なってました。
具体的な出会いと言うと、群馬県にある天ぷら発電所に役員の方が問い合わせをしてきて、お会いすることになったのではないかと思います。
ー群馬県にも発電所がある?
染谷 生のまま発電する発電機は、墨田区の工場で実験研究を重ねました。そして2016年春には、145kwの発電所が群馬県にできました。そうして今回、みんな電力さんからも、TOKYO油電力の電気をお求めいただけるようになったのです。
ーなるほど。
染谷 そして、天ぷら発電所売電にも大変興味を持っていただいて、一緒に普及もしていただけることになりました。
「NHKひるどき日本列島」では高視聴率でした。収録終了後、みんなで記念撮影
ーどれくらいの天ぷら油で、どれくらいの発電ができるのでしょう?
染谷 1リットルの油でお家一軒分です。1リットルで3kw発電します。
でもその1リットルの油は、捨てたら1キロのただのゴミです。しかも、流しに流して河川にいったら、風呂桶1000杯じゃ足りないくらいの水がないと魚が住める水質になりません。
ですから、油は捨てないでリサイクルに回してくださいね。
ー世界展開を標榜されているとのこと。直近で計画していることはありますか?
染谷 まずはTOKYO=東京を油田に変えることが目標です。メガワット級の天ぷら発電所を皆さんの油でつくりたいですね。
ーメガワット級の発電には、どれくらいの天ぷら油が必要か、、
染谷 メガワット級でも、都内の皆さんが捨てている油で十分に間に合います。だって、全国の油で発電したら、原発一基分の電気ができるんですから。
ー電気を使う一般消費者に期待していることは?
染谷 東日本大震災で福島原発が壊れ、コンセントの先がどうなっているのか、多くの日本人が意識し始めました。電気を選択することは自分たちの未来を選択することです。多くの皆さんが、「原発は嫌だな、、でも、選択肢がないから仕方ない」と思っていると思います。
でも、日本には、まだまだたくさんの未利用の資源があります。原発事故を起こしてしまった国だからこそ、大きく舵を切り再生可能エネルギーを主にしたエネルギーでみんなのエネルギーを賄えたら、世界にもそのソフトを販売していけると思います。
東日本大震災時、台湾からの支援物資を気仙沼まで運びました。バイオ燃料を現地で給油する姿は頼もしかったし、皆さんにも勇気を与えられていればと願います
(取材:平井有太)
2017.10.12 thu.