【初回】patagonia|新支社長「マーティ」独占インタビュー
現在みんな電力はパタゴニアと提携し、千葉県匝瑳市でつくられているソーラーシェアリングの発電による電気をパタゴニア東京・渋谷ストアに供給中
パタゴニアのミッションステートメントにはこうある。
「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」
パタゴニアジャパンでは昨年、約10年間日本支社長を勤めた辻井隆行氏が退任し、10月1日からマーティ・ポンフレー氏が同役職に就任した。
ポンフレー新支社長=親しみを込めて「マーティ」に、これからパタゴニアは日本で何を標榜し、何を成し遂げるか、聞いた。
つい先日は白馬に「POW」のイベントに行きましたが、雪がまったくありませんでした。加えて、日本にはかつてなく強烈な台風が来るようになりました。昨年の台風15、19号は記憶に新しいですが、あれは海洋が温まっていることに起因しています。他にもオーストラリアやカリフォルニアでは山火事が猛威をふるっていますし、すべては普通の事態ではありません。
10年前の今日を振り返れば、この変化が本来10年で起きるようなものでないことは明らかです。つまり状況は、加速度的に悪化しているのです。
私たちは本気で、地球温暖化を1.5℃以下に抑えないとなりません。それには2010年のレベルより45%、CO2(二酸化炭素)排出量を削減する必要があります。そうしてやっと、2050年目標である、排出量と同量のCO2を大気から除去する「実質0」が実現できます。それは私たちが掲げる目標ではありますが、数値は信頼できる世界中の科学者たちが算出したものです。
そこで日本について話せば、Global Peace Indexというレポートによると、日本は世界で2番目に大きく気候変動の影響を受ける国に認定されています。1位はフィリピンです。その事実だけで、これはビジネスの立場からだけではなく、政治的な立場としても、行動が必要と言えます。今後おのずと、その必要性は他国よりも増していくでしょう。
それは、私たちのミッションステートメントにそのまま通じています。それは、「地球を救うためのビジネスをする」ということです。昨年それを掲げ、私たちの企業活動の軸としたことで、あらゆる取り組みがその周辺状況まで含め、すべて変わりました。
日本という国は、一つきっかけさえあれば、国としてある方向へ向かい、大きな目標を一気に達成する力において、目を見張るものがあります。ただそれが起きる上での、最初のきっかけまでの道が、現状とても険しいのです。
これはちょっと飛躍してしまう話かもしれませんが、現状日本の政策は国を、私たちの向いている方向に導こうとはしていません。そして遅かれ早かれ、古い産業は退く必要があります。
その状況下、私たちが実践していることは、私たち自身が理想とする姿、向かう方向の前例そのものになろうということです。もし私たちが、環境に貢献できるテクノロジーや、地球を守れる有効な方法を見つければ、いつでもそれを共有する準備もできています。それらを私たちだけで専有して実践しているだけでは、今置かれている状況から地球を救うには、もうすでに足りないからです。
私たちが望むことは、ご一緒できる企業や自治体、NPOやNGOなどソーシャルな団体や個人さまと共に前に進むことです。私たちを支持してくれているお客さま皆さんも含め、同じアクティビストとして、取り組みを続けたいと思っています。
世界各地の若者たちが主導して開催された、より強い気候変動対策を求めるマーチ「Friday For Future」。その日本版にマーティも参加した
もし私たちが若者たちを巻き込むことができれば、そのこと自体が未来を変えることに他なりません。考えてみれば、彼らはこの気候の変化の影響を私たちよりも長い期間受けるわけで、それは当然なのです。だからこそ、彼らは自分の親、祖父母の考えを変える力を持ち、その積み重ねがビジネスや政治の変化にも繋がります。それが私たちが抱いている希望です。
今何が起きているかと言うと、日本従来の「センパイ〜コウハイ」な関係性がひっくり返り(笑)、若者たちが年配者を率いる構図ができつつあるのです。
自然災害があって、人々が水を求めて列をつくると、日本ではしっかり皆さんが待つことができます。他の国では、そうはいきません。そういったある種のコミュニティのセンスが、ここにはあります。それは日本では国土の7割が山であり、集落の文化が根付いていて、近所同士でお互いを気にかけあい、共生してきたカルチャーがそうさせているのではと思っています。
ですから、そういった側面をポジティブな方向に導くことさえできれば、社会におけるマジョリティが続いてきてくれると信じています。
市民エネルギーちば合同会社運営の千葉県匝瑳市にある発電所。ここから渋谷ストアの年間電力使用量約6.5万kWhをほぼ賄っている
それは私たちにとって、とても大きな、大切なことです。「ソーラーシェアリングで発電している」ということが重要で、そのことで私たちは電気と同時に、発電しているパネルの下で農作物もつくれます。将来的に私たちは、そこで育てた農作物も商品にしていくでしょう。そこまでのことができるようになる力は、循環型でオーガニックな経済のあり方を存在で証明できる、大変貴重なものです。
再生可能エネルギーには、地域にコミュニティをつくり出す機能があります。そして同時に、人々にポジティブな変化がどのようにもたらされるものか、示すことができます。
それまで環境に関する活動をしてこなかった人でも、再生可能エネルギーについて一歩ステップを踏み出すことで「あ、これは実際にできる。本当に変わる」という実感が、さらに「もっとやりたい。できる」という意識へと進化していきます。
踏み出したその一歩が、それぞれの意識にかけられたベールを剥いで「今、見える。問題はあそこにあるんだ」という気づきに導いてくれます。それは確かに日本人にとって、「思い出した」という感覚なのかもしれません。
再生可能エネルギーとは、それそのものがいいというだけではなく、それが存在として人々のマインドセットに与える影響が、もしかするともっと重要なのです。そのマインドが、未来に向けたさらなる行動を生み出すのですから。
環境活動に取り組もうという人々に必要なのは、ある種の成功体験です。再生可能エネルギーは「これをやったら、こういう変化が生まれた」という、最初の具体的な体験を提供してくれるのです。
マーティ・ポンフレー
1970年6月29日、フロリダ州マイアミ出身。日本ではナイキジャパンでアナリストとしてプロフェッショナルキャリアをスタートした後、カテゴリーセールスマネージャーに就任。その後、フォッシルジャパンでオペレーションズディレクター、マネージング・ディレクターを経て、アメリカ本社で複数の副社長ポジションを歴任。2007年以降はコンサルタント、昨年10月1日からはパタゴニア日本支社長として勤務。
曰く、「新しいミッションステートメントである“私たちは故郷である地球を救うためにビジネスを営む”をビジネスのすべての側面で適用し、気候危機に対する革新的な解決策を探すという明確な機会と責任の元に、邁進していきます」
パタゴニアは確かに企業ではあるが、すでに目標が自社の利益よりも「地球を救う」という任務のもと、
それを実現しうる、あらゆる存在と連携していく姿勢が根付いているように感じた。次回もお楽しみに