建築家・磯崎新 × 虚人・康芳夫
NYの伝説のディスコから中東の巨大メディア・アルジャジーラ、果てはFCバルセロナのユニフォームにまで繋がるお話。
問題は、現代までの日本の姿、その特徴を、アートや思想を含めてどこが“伝える”感覚を持っているか。それはさらに、建築家・磯崎新(85)氏がオリンピックに向けた国立競技場デザイン・コンペで支持した、故ザハ・ハディドのデザインにまで繋がる意識の話でもある。
なんと、故鳩山邦夫氏の有名な「友人の友人がアルカイダ」という発言に出てくる「友人」であるという、深過ぎる懐の底が見えない、磯崎氏。
氏に、79歳にして俳優デビューを果たし、この9月には集大成となる大著『虚人と巨人』(辰巳出版)刊行が待たれる「国際暗黒プロデューサー」、「世を睥睨するスフィンクス」、康芳夫氏が聞いた。
これは、もう亡くなった、折口信夫と同じ頃に慶應で教えていた、最後はイランの王立研究所の代表格に引っ張られて行った井筒俊彦さんという人がいます。この人は、日本語ではあんまり文献を書いていない。
そして、イスラム的な建築空間というのを、僕が説明を聞いて「なるほど、そうか」、「東洋と近い」と思った、私と同い歳くらいのナデル・アルダランという建築家がいます。するとこいつが「実は、この理論はイヅツ教授から習ったんだ」といいます。井筒さんがテヘランの王立研究所で教えている時に、「イスラムの空間というのは、こう考えればいんだ」と思ったと言うんです。
僕はその後、彼と一緒に展覧会をやったりしましたが、イスラムの空間には、本当は西洋的なロジックなんていうのは無関係で、いきなり「イメージ」なんだと。それはもう、ゾロアスター教以来の特徴であると。
ここで言う「ゾロアスター」というのは、「ツァラトゥストラ」なんですよ。我々は「拝火教」と言っていますが、ニーチェはあれをドイツ語で読んだにすぎないんですね。彼は、全部のヨーロッパのロジックをひっくり返そうとして、しかしそれはもうすでに、最初からあの辺でひっくり返っていた。
そしてその国の持ってる思想としたら、その建築家は「曼荼羅的なもの」と言うし、井筒さんは「一種の神秘哲学」と言う。「スーフィー」という神秘主義の一派があるんですが、どうやら「それがイスラム哲学その基本なんだ」という考えなんです。
これはロジックを超えているわけです。それで、アラブ人というのは視覚と聴覚が敏感ですから、そこに、いきなりイメージがパーッとある。イスラムの人と付き合うと感じますが、僕もそちらに近いんです。
だから僕は、無名だったザハ・ハディドがそういう人なんじゃないかと思って、国際コンペで選び出しました。だからずっと、ザハが「条件がどうなってもクビにせずやらせて欲しい」ということでここまできて、今では日本で唯一のザハ支持になってる(笑)。
だから、ちょうど一週間くらい前に鳩山邦夫君が死んだけど、彼の「友人の友人がアルカイダ」という発言は、あれは磯さんのこと(笑)。
その時は、I.M.ペイに設計させました。でも彼はその後も、つまりオークションにイスラム的な美術が出ると、彼がその場に行っただけで値が世界市場で上がってしまうという。
パラディウムはすごいディスコで、ミック・ジャガーなんか毎晩来ててね。
それで、1年間で300万人と考えると、ヤンキースタジアムが1試合に最高5万人以下しか入らない。しかも年間60日しか試合がないので、1年でヤンキースタジアムよりもディスコが動員しているというので、それで有名になって(笑)。もう、関係者はみんな死んじゃいましたが。
彼は、当時の国王の従兄弟だったんです。それが第4王子とか、そんな立場でした。当時の国王には僕は紹介していただいたんですが、とにかく彼があんまりやり過ぎるので、嫌われて、国王は彼を救おうとしたけれど、それも無理だった。
その後、10年くらい前に代が替わって、今のカタールはほとんどその次の世代です。「カタール・ファンデーション」というのができて、サッカーの一番有名な「バルサ」というチームがありますね。あの、ユニフォームの胸にある「QATAR」は、そのファンデーションのものなんです。だから、彼は一番最初にそこを買収したと。当然お金まわりは結構いいわけですが、そういう種類の話がたくさんあって、足もすくわれるんです。
いくつか、本人はほとんど無一文の王子の時代にはじまってそこまでやったし、プロジェクトもつくったわけですから、こちらとしてもとても面白かった。でも、できなかったことは残念ですね。とはいえ一つだけ変わった建物が、これは王様のプロジェクトとして、コンベンションセンターが出来あがりましたけどね。
「イデオロギーなんてここの2世紀くらい、近代につくられたもの」と語り、軽々と左右の壁を超える規格外のスケールから、私たちが学べることはあるだろうか。