【第2回】SHINGO★西成|『ドレミファSOLAR』、そして5thアルバムについて
読みもの|5.24 Wed

 エネルギーが持つ無限の可能性を、熱い想いと共に『ドレミファSOLAR』に込めてくれた、SHINGO★西成氏。しかし同時に、一般の目線から、まだまだどれだけ電力の世界がややこしく、日常から遠いものに見えるかも語ってくれた。
 西成のおっちゃんでもわかる「電力自由化」とは。
 今日は奇しくも、3年半ぶりの5thアルバム『ここから・・・いまから』が発売の5月24日。
 今も変化の渦中で新しい問題も山積みな西成から見えてくるキーワードも、氏が東北の被災地で拾ってきた言葉も、「循環型社会」を想起させるものだった。

 

shingo

ー「義務教育 教えていく 電力自由化をクリック」とも。
SHINGO 「電気も自分らで選べるようになったよ」、「それぞれの環境におうたモンをおうたトコにチョイスできるようになったよ」ということです。
ーただ実際には、国民の約5%しか電力を替えていない現実があります。
SHINGO 正直オレだって、あれから電気のことについて考えたことがない。それくらい情報が入ってこおへんし、逆に賛否両論もあって。
ー何が足りないんでしょう?
SHINGO わかりにくい。そこは素直に言わせてもらって、西成のおっちゃんに説明できるくらいのレベルにしないとあかんと思う。
 昨日も炊き出しがあって、昔は10時半が始まりの時間やってんけど、それが1年半前に11時半になって。オレは同居してる母親のメシをつくらなあかんから、11時半だと行かれへん。誰かに任すちゅうても嫁が無理やったらオレやから、炊き出しはオレがおらんくてもまわるけど。
 それで久々に行ったら「6月3日から11時になります」言うて(笑)。その1時間や30分て、ホームレスのおっちゃんにしたら大変なこと。そんな小さなことでもイチイチ伝えるのに苦労すんのに、「電力自由化ってどんな手続き?」って。
 しかも西成は生活保護で貧困ビジネスが成り立ってもうて、胡散臭い不動産屋が山ほどおって、前にBM停めて踏ん反り返ってるおっさんおって。それさえも止めれない町やから、よりあの町には伝わりにくい。そして、うまくいったらどうなるかってこともわからない。
ーそこさえも伝わってない。
SHINGO 例えばTポイントカードって、どこ行ってもコンビニでも、「Tポイントカード持ってますか?」って言われるから。1日10回言われたら「やらなあかんのかな?」ってボケてまうけど(笑)、もしかしたらそれくらい刷り込みでいかなあかんのちゃうかな。それで「再生紙つかってます」みたいな感じで、「エコで地球に優しくやってます」言うのが、そのお店の売りになるくらいの展開で。
 だって知らなければ、野菜でもオーガニック食べてもわからんわけやんか。でも、一緒に行ったメンバーに「健康志向やで」、「自然派やで」と言いたかったりするわけやから、そういうこだわりの店を攻めたり。大きいところはまた難しいでしょう?
 そうして、とりあえず「間違ってないこと」、「正しいこと」はやり続けないと。それでその方法はできるだけ透明性あるようにしていく。せやないと、ボロが見えたら東電と一緒にされてしまう。
ー持続することの大切さは、5枚目のアルバムを出すこのタイミングで、説得力があります。
SHINGO そこは情熱だけ。音楽が好きで、音楽で表現したい。それによってまわりの人、町の想いや仲間の代弁もしたい。そして新たに生まれてくる自分の熱に、また動かされて。
 今、西成の町そのものも変換期やから。まず、ここ何十年で「労働者の町」から「生活保護の町」になって。しかも物価や泊まるところが安いから、めっちゃくちゃ観光客もおるし、星野リゾートまで入ってきてまわりの土地バンバン買って、オレにまで「物件の知り合いおらへん?」って電話がかかってくる。そんなん1件、2件ちゃうからね。
 そういう変換期やけど、西成WANという活動や、西成で音楽をつくっているということとか、米カンパライブや区民センターでの無料ライブ、児童施設にできる限りの気持ちを伝えたり、それで喜んでくださってくれる方が「ほんの少しはいらっしゃるかなあ」って。
 今でも「オレはこれを成し遂げたぜ」ということはないし、そこを求めてないから。
ー「循環」というキーワードも、SHINGOくんの活動には見え隠れします。
SHINGO 昨日炊き出し行ったけど、もう20年近くやってるけど、いろいろあったし、愛のない人に「売名行為やろう?」とか言われて情熱が冷めてしまったり。それで、それまでは無理してでも行くこともあったのが、「行ける時だけでええわ」となって。ホンマ、家庭を顧みず自分の貫き、信念で行ってたから、そんな一言でアホらしなったり、でも、そういうことがあるのが世の中で。
 アルバムには、このタイミングでしか出せない言葉をぎりぎりまで詰めて、出すのがこんなに遅れても「お前のこと支えたろ」いう人への、最大の感謝とリスペクトとか尊敬とかを込めて。
ージャケットの写真は西成の昔からある喫茶店です。音やリリックには、経験を積んだ、いい意味でのゆとりを感じました。全体として、原点回帰と言いますか、、
SHINGO 学校の先生とか、他の種類のメッセンジャー、、例えばスポーツ選手も、勝ち負けの難しさを伝えるやん?記録を達成するまでに「こんなしんどいことあった」とか、成功かと思ったら、最後の油断であかんようになったとか、いろいろ教えてくれる。そして、地域のおっちゃんおばちゃんが語ることも、みんな「道」を伝えるんだけど、そこにもう一つ、「オレ」という選択肢が増えたくらいかな?
 でも、今まで自分としても、曲名で『一等賞』なんて思えへんかったし、アルバムタイトルの『ここから・・・いまから』だって、そうやから。
 あと、「命のリレー」という言葉が出てくる。それは福島で、国道6号線が最初に解除された、オレはその日に行く機会があって、そこで福島大学の先生や地域の方とかと話した時に耳にした言葉で。「命のリレーをしていかなあかん」ということを言うてて。
 親も子どももただ生きてるだけじゃなくて、「オレら命のリレーに参加している」ということを考えた。それこそ「循環」じゃないけど「一人じゃない」、「繋いでいくねんで」って、たぶん福島や東北の人しか言えへん、ホンマに思ってることやからちゃんといいタイミング言うてて。それは、説得力あったすよ。

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SHINGO★西成

“昭和の香り”色濃く残る大阪のドヤ街「西成」、釜ヶ崎は三角公園近くの長屋で生まれ育つ。「今に見とけよ!」精神と冷静な視点、体験を元に「間」を活かした独自のソウルフルな「べしゃり芸」で表現する世界観は、キャラの濃い関西シーンの中でも突出している。KREVA、香西かおり、赤井英和などの競演陣が示すとおり、ユニークで暖かい人間性ゆえに“ジャンルを超えた存在”として、今や名実共に“大阪名物”。2013年にはNHKが45分間の「地方発ドキュメンタリー “西成”を歌うアーティスト」を制作。同年12月4日に4thアルバム「おかげさまです。」を、翌年8月6日には初のMIX CD「ラガッ&ラパッ」を発表。その後、吉本新喜劇とコラボしたライブをなんばグランド花月で敢行、収録DVDを15年4月29日にリリース。長年続けている釜が崎三角公園での炊き出しボランティアをはじめ、堀江のゴミ拾いプロジェクト、西成ウォールアート回廊計画などにも参加し、社会にも積極的に働きかけている。5月24日には待望の5thアルバム「ここから・・・いまから」を発表。初回盤に付属するDVDは、ディレクター・KUROFINNによるMV5曲とショートインタビューで構成されるドキュメンタリータッチの短編といった趣で、音だけでなく映像でも彼のスタンスを感じ取れる。

 

(取材:平井有太)
2017.05.10 wed.
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