【最終回】金沢で最初のお客さま・吉田酒造店
読みもの|8.10 Tue

7代目

  吉田酒造店さんの電力切り替えに端を発した本記事。最終回は、同席された7代目の奥さま・麻莉絵の言葉も交えながら、持続可能な美味しい酒づくりに邁進する、酒蔵の本懐が見えてきた。
 その地域環境への想いと持続可能性への挑戦を聞くほどに、大切な選択は私たち消費者に委ねられていることを感じざるをえなかったインタビュー。好きなお酒を、その背景にまで想いを馳せず、ただただ「美味しいから」と享受し続けることに潜むリスク。このまま気候変動と共に環境破壊がすすめば、それぞれに地域の自然と共にある日本酒を楽しめなくなるばかりか、その、日本が世界に誇る文化を失う可能性すらある。
 お酒の話から、あらゆる業界のものづくりの現場、職人の在り方に通ずるエッセンスが詰まった本記事。
 多くの方々に届きますように。
ーそういった心配を払拭する上で、今後仕掛けていきたい取り組みはありますか?

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吉田 まずはこの再生可能エネルギーについて、いくら僕たちが考えても一社だけでは影響力はたかが知れています。これはもっと業界全体で、そして同業者だけじゃなくて日本全国、もっと言えば世界中でみんなでやっていかないと変わらないことなんだと思います。
 日本酒業界に関しては、まず今の、「冷蔵が当たり前」というトレンドがあります。しかもその冷蔵庫も、普通の冷蔵庫ではないでんです。日本酒用に特化した「マイナス5度」という設定ができる、冷蔵庫と冷凍庫の間くらいの専用冷蔵庫がすごい量つくられています。
 そこをマイナス5度ではなくて、僕の中では10〜15度くらい。それはワインにおいて「熟成によい」とされている温度です。
 これから日本酒がもっと世界に出て行くには、そのマイナス5度や、普通の5度ということも言われています。でも、そういった温度帯ではない、せめてワインと同じ基準でいけると、貯蔵や熟成にそこまでのエネルギーを使う必要もなくなると考えています。
 「冷蔵庫の1度の差で、使用エネルギーが大幅に変わる」ということは、よく言われることです。
ー「海外で愛され、拡まるこれからの日本酒」と、「環境負荷をかけない酒づくり」の両方が視野に入っている吉田酒造さんだからこその役割は、大きそうです。

仕込み

吉田 もっと、そういった仲間をつくっていけたらという風には思います。
 うちにもフレッシュで美味しい、その味わいを守るために冷蔵で出すお酒は多くあります。そこにさらなる技術的改良で、10〜15度でもしっかりした品質で、美味しく呑めるものが確立できてきたので、そういうものを増やしていきたいと思っています。
ーそのような問題意識のもと、金額が上がるのに電気を切り替えるという点について、それこそお父上や社内の方々の意見は、いかがだったんでしょうか。

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吉田 最初、うちの会長は心配だったようです。やはり金銭面的な上昇は負担になるし、どこまで安定した価格で入ってくるかわからないという理由で、「よく考えろ」という風には言われました。
 でもここまでお話したように、「再生可能エネルギー化をしていく」ということや、環境配慮したお酒づくりについてはずっと言ってきて、その点については会長もわかってくれていました。また、そもそも会長の時代から、節電なんかは結構率先してやってきていたんです。
 LEDに替えるのも早い段階から、冷蔵庫をつくった時も一緒に屋根にソーラーパネルを置いたり、工場の壁に塗る塗料も遮熱塗料にしてきました。また冷房を使う部屋は、地下水の冷たさを利用した井水クーラーという空調設備にしたり、そういうことはやってきていました。
 ですから、そういった取り組み自体には何も言いませんでした。
 でも、お金がかかって「経営的にリスクがあることだよ」ということで、「もう一度考えろ」ということは言われました。
ーとはいえ、最終的に納得はしていただけた。
吉田 そこで金額が上がる部分は、これまで何となく続けて出してきた広告費とか、昔からある看板とか、そういうところをカットして調整しました。
ーみんな電力を選んでいただいた、最終的な決定打的なものは、ありましたか?

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麻莉絵さん みんでんさんを知ったきっかけはインスタでした。
 もともとフォローしていたDEPTのeriさんや、ロンハーマンの根岸さんの投稿で見かけるようになり、再生可能エネルギーについて調べ始めた時に「あ!そういえば!」と検索。他社さんも含めて調べたところ、みんでんさんの「透明感」がいいなと思って問い合わせ、オンラインでお話を聞きました。
 最終的な決め手は「つくり手の顔が見える」ことと、「再エネを(発電も含めて)広げて行こう」という会社の姿勢が見えることでした。
 「買い物は投票」とよく言われますが、5年ほど前から個人的にとてもそう思うようになっていました。それは服や野菜だけでなく、ライフラインである電気も同じだなと捉えています。
 みんでんさんの電気を買うことが再エネを応援するにことになると思い、社長と話し合って契約させていただきました。
ーせっかく苦労を乗り越えて実現させたエネルギーの切り替えを、どのようにかアピールさせていくご予定はありますか。
麻莉絵さん その予定は、今のところはありません。「それでモノを売る」というよりは、「それが当たり前になればいい」という風に思っています。
 最近こういった取材をしていただくことも増えているんですが、それを過度に宣伝していくつもりはあまりなくて、もっと自然に「やってるよ」という。
 日本酒ってそもそもたくさんあるし、美味しいものもたくさんあって、選ぶ基準がなかなかわからないと思うんです。でも、それをお客さまに知っていただく上で、「美味しい」の次の選び方の基準に、「環境に優しい」とか「添加物がない」みたいなナチュラルな部分を加えていただけたらと思います。
 もちろん、まったく知らせないというわけではなく、ちゃんとやっている部分は示しつつ、華美な宣伝はしないという姿勢でいます。

蒸米

ー逆にみんでんについて、再エネを拡める上で「こうしたらもっとよいのに」といったアドバイスや要望はありますか。
吉田 電気についてはわかりにくい部分が多く、複雑で、例えば「非化石証書」みたいなことを言われても、すぐ頭に入ってきません。自分にとってわからない部分があって、それはおのずと社員にとってもわからないことになると思うので、一度わかりやすく教えていただきたいなということは思います。
ーありがとうございます。
麻莉絵さん 私には、環境や電気に、もともとそんなに興味があったわけではありません。でも、会社に入って彼のサポートをするようになったら、「持続可能な酒づくり」っていろいろなところで公言していて「これはマズい」、「何かしないと」と思ったことが個人的なきっかけでした。

新酒祝い2020

吉田 当時は言うだけ言っていたので、「エコエコ詐欺」って言われていまして(笑)。とにかく言うだけということが多かったので、やっとかたちになってきて嬉しく思っています。
 さらに今は、みんな電力さんに替えたことと、もう一つ大事な取り組みがあります。
 それは「地域の自然を守ろう」という、白山手取川ジオパークさんと一緒に取り組んでいる、白山をまもる活動です。それもお金だけじゃなくて、そのこと自体を拡める活動と言いますか、山の自然はいつも近くにあって、僕らは山からくる豊富できれいな水を当たり前のように使っています。それだって何もしなければ永遠続くものではなく、有限なものです。それなのにこの地域や、僕らの世代でも、そこを意識していない人がすごく多い。
 ですので、売上げの一部をジオパークさんに寄付し、コラボ事業として白山を守る活動を継続的に取り組んでいく予定です。

神棚

ーそこまで地域を意識されている姿勢に対して、地域の方々の反応はいかがですか?
吉田 地域のメディア関係の方々は、SDGsの流れに合わせて取り上げてくださったりはしています。でも肌感覚としては、まだ、それこそ県内のお客さんから「いい取り組みだね!」というのはないかもしれません。
 小さな一歩ではありますが、お酒を通したこの取り組みから、この土地の環境について興味を持ってくださる方が増えたら良いなと願っています。
 ちょうどうちも今、それこそ代の替わり目で、新しいことをはじめる準備もしています。このタイミングだからこそ、みんな電力さんとの再生可能エネルギーと僕たちの自然や環境への取り組みを、うまく繋げていこうと考えています。

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「持続可能な酒づくり」を標榜されてきて、そこに向けた着実な一歩としての、吉田酒造店さんの電力切り替え。
「エコエコ詐欺」から「それが当たり前」に、何より私たち消費者一人一人が、生活の中で選択を積み上げることが肝要です

 

(取材:平井有太)
2021.6.17 thu.
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