
2025.12.08
ネットサーフィンの途中で、ふと目にとまった「価値の再構築」という言葉。 サイトを覗くと、端々ににじむ店主の人柄に惹かれた。 「面白いものづくりをしている人がいる」──そう思い、TADORiから声をかけた。 漆塗りの過程で生まれる濾紙(こしがみ)を使ったうちわ。 兵庫・西脇で織られた生地をレスキューしたベースボールキャップ。 写真の遊び心と、誠実なものづくりの気配。 どれも、捨てられるはずだった素材に新しい光をあてている。 ものがあふれる今だからこそ考えたい—「見方を変えると価値になる」ということ。 今回は、価値の再構築を実践する店「niente(ニエンテ)」の店主・見城さんに、その背景と想いを伺った。
「何もない」店名に込められた想い
意識するのは”時代”よりも”面白い”こと

ーUPDATER代表・大石や、みんな商店でスタッフがかぶっているキャップをつくってくださり、ありがとうございます。 見城 たくさん発注いただいて、ありがとうございます(笑)。 ーもともと、みんな電力と関わりがあってからの話だったんでしょうか。 見城 みんな電力を使わせていただいています。 ーそうなんですね、ありがとうございます! 見城 ウチのスタッフにすすめられて「これ、いいんじゃない?」となって、僕もいとうせいこうさんが好きだったり「やられていることが面白いな」と思っていたこともあり、みんな電力さんにしました。 ーいとうせいこう発電所は2021年からやっているサービスです。結構前から使ってくださっているのですね。 見城 コロナ禍でしたね。

ーお店は何年くらい経ちますか? 見城 お店をオープンしてちょうど一年経つなと思ってたぐらいに、ザワザワッとコロナがきて、世の中は大変でしたが、自転車は逆にめっちゃ売れました。 ーそもそもなぜ店舗を豪徳寺に出されたんですか。 見城 豪徳寺には縁もゆかりもなかったんですが、前職のトーキョーバイクを独立して、自分の店を構えることになり、練馬や江古田、田園調布や武蔵小杉など、いろいろな街で物件を探しました。 その中で、たまたま良さそうな物件を見つけて、内見に来たのが初めての豪徳寺で。 商店街を歩きながら「この街、すごくいいな」って、ほぼそういう直感的な感じで決めました。もう直ぐ7年になりますが、近所にお住まいの方やお店の方との距離感が近くて、とても居心地のいい街です。

ーもともとのご出身はどちらですか。 見城 出身は静岡で、20歳で東京に出てきました。今住んでるのは北区の駒込で、自転車でも電車でも1時間ぐらいです。 ー店名は何語なんでしょうか。 見城 イタリア語です。「何もない」という意味です。 トーキョーバイクから独立したきっかけでもあるんですが、ある時期に「自分にとって本当に面白いと思える事ってなんだろう」という問いが生まれて、自分なりに色々考えた時がありました。 その結果「絶対的な価値って“無い”」っていう現象にグッとくるんだなぁという結論に至ったんです。 誰かが「価値が無い」としたモノでも、見方を変えたり、ちょっと手を加えることで急に「価値が在る」に変わったりすることってあるじゃないですか。そういう事にすごくワクワクするんですよね。 次第に、それが仕事にならないかなぁってあれこれ考えるようになって、アップサイクル的な発想が生まれ、独立することになりました(笑)。 そして、19才の時に3ヶ月だけですがイタリアのフィレンツェに留学してたことがあってイタリア語を少々かじっていたこともあり、「niente (ニエンテ)」は意味も響きもズバッと来たので決めました。

ーそういうことに興味がおありだった理由は? 見城 明確なきっかけは思い当たらないのですが、なんとなく昔からそうでした。 日常的なところで言うと、たまにリサイクル屋さんに、あんまり整理されてない感じで「この棚の食器全品50円」みたいなコーナーあるじゃないっすか。あの中から、キラッと光るものを見つけるのが大好きでした。路上にある「ご自由にお持ちください」BOXとかでいいもの見つけたときとか、もう最高ですね。 あと、粗大ゴミとかも見ちゃいますね。「これをバラしたら材質として使える」「この椅子の脚は壊れてるけど、別の用途で使えるのでは」とか、そういうこと考えるのが好きで、一番ワクワクします。 ほんとに、nienteはそれの延長線上にあって、今ではものづくりをされてる方に出会う度に、「いつも捨ててるモノ(素材)とかありませんか?」と聞きながら、キラリと光る素材を探し、「これはっ!」と思うポテンシャル素材を見つけては、プロダクトを作る。それがほんとに楽しいです。

ーそういうことがお好きで、何と言いますか「自分の好きなことに時代がついてきてる」というか、一昔前なら「なんでそんなことするの」みたいことが、ハマる人にはハマるようになってきた感覚はありますか。 見城 “時代”というのは「SDGs」的なことや「循環型の何か」だと思うんですが、そういうことは正直そんなに意識してないです。 価値が生まれる瞬間を面白がっていて、プロダクトに関していうと、「プロダクト」として評価される事が大切だと思っているので、社会的な意義や環境への配慮みたいなストーリーの表現は、店頭やSNSの発信なんかでもそんなに押し出していません。 もちろん興味を持ってくださった方にはお伝えしますし、結果的に環境にも社会にもいい影響があるといいなとは思っていますよ(笑)。 ー肝にもなりうる部分を、あえて言わない。 見城 そうですねぇ、あえて言わないというか、自分が面白いと感じる部分にフォーカスして伝えてる感じですかね。

ーでも私たちはそこにつられて、取材に来てしまいました(笑)。 シンパシーを感じる点としては、UPDATERも電気を軸に社会を考えれば、実は誰でも発電はできて社会に貢献できるし、発電できたり、その下の豊かな土壌は、駅から遠いまわりに何もない辺鄙な場所に多い。都市部で言われている価値の逆の場所にこそ魅力があるという、価値の転換の話をすることがあります。 ーまた、ニエンテさんのお店にも商品にも、カルチャーの雰囲気が漂っています。 見城 カルチャーと言えるほど深く掘り下げられるている自信はありませんが、発想の転換で面白がることは大好きです。あとそれは、モノだけに限らずに...。 トーキョーバイクに入る前は、メッセンジャー(自転車便)の仕事をしていました。 ーピストにも乗られていた? 見城 乗ってました。 その時も、やっぱり夏はものすごく暑い。ものすごく暑くて汗をかくから、当然喉も乾くじゃないですか。喉が渇いたら水分補給したくなるのですが、7時の定時に向けてあえて5時頃から何も飲まないようにしていました。その後のビールをめちゃくちゃ美味しく飲むために。みなさん真似しないでくださいね(笑)。 単純に言えば、暑くて喉が渇いてツラいシチュエーションでも「この後のビールは、さぞうまいんだろうなぁ」と思う事で面白がるというか。つまり、シチュエーションは変えられないけど、自分の中のマインドセットを変えてその状況を面白がるというコトを無自覚的にやってきたというのはあります。 ーわかるような気がします(笑)。 後編へ続く。 https://tadori.jp/articles/483

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