
2025.12.08
価値の再構築をテーマにアップサイクル製品を展開する豪徳寺のセレクトショップ「niente(ニエンテ)」。店主の見城ダビデさんへのインタビュー後編です。 前編を読む
とりあえず誘って、一緒に呑む
僕はこうだけど、あなたならどう?
複合的な価値を持つ場所
自らに訪れた大きな価値の転換

見城 「物事の見方を変える」という点で今ふと思い出したんですが、実は昔、「僕の自転車を盗んだ犯人」とサシ呑みした事があるんです。 ーえぇ! メッセンジャー時代に自転車が盗まれて、まいったなぁ〜と思ってたら翌日同僚が犯人を見つけて捕まえてくれました。無線で連絡があり、事務所に戻ると犯人と僕の自転車がちゃんと帰ってきてて、犯人は先輩や同僚にめちゃくちゃに怒られていました。 最終的に警察に出頭するんですが、彼が怒られている姿をみながら「この人、今はボロクソ怒られてるけど、どういう人なんだろう」という謎の興味がすごく湧いてきちゃって、後からその人にコンタクトして呑みに行ったんです。 そうしたら、なんか、言い方難しいけどわりといいやつだったんですね(笑)。 当時僕の自転車は蛍光色のド派手な黄緑だったんですが、彼に何で盗んだって聞くと「僕、すごい黄緑が好きなんです」「この色に惹かれて」みたいなことを言っていて。彼のバッグをパッて見たら本当にすごい黄緑で。 ー(笑)

見城 盗んだのは悪いけど、なんて言うかすごい、かわいい部分があるというか人間臭いと言うか。 ー衝動が我慢できなかった。 見城 彼も反省していたし。美容の学校行ってて、すごい頑張ってる感じでした。 コンテストにも入選して今度留学もするみたいな話もしてくれて。「じゃあ、頑張って」と、それきり連絡はしてませんが、何やってんだろうなぁ今。 ある方向から見たら泥棒で悪人だけど、別の方向から見たら頑張ってる部分、優しい部分、面白い部分だってあると思うんです。 なぜ自分もあんなコトしたのかは、不思議ですが、やっぱり、違う方向からちゃんと見てみたかったんだと思います。 ー外見や、言われている価値が「すべてじゃないぞ」というようなことを、いつも楽しみにされている。 見城 それは単純にモノだけじゃなく、コトだったり人間関係とか事柄とかまで含めて言えますよね。

見城 お店の話に戻ると、僕の中のピークは「プロダクトができた」時なんです。もちろんお客さんが買ってくれたり、評価してくださるのもめちゃくちゃ嬉しいんですが、捨てられかけたものが「僕なりにプロダクトに出来た!」というところで、一旦満足してしまう。 アップサイクル的なアプローチって、もちろん僕がはじめたというわけではないですし、もともとフライターグみたいにそういう取り組みをされてるブランドはありました。 ーそういう先人たちの取り組みは、頭の片隅では、なんとなく認識しつつ。 見城 ここで少しだけ「二エンテ」という名の由来に戻りますね。 実は、"niente" には、もう一つ使い方があって、イタリア語で「グラッツィェ=ありがとう」と言った時に「プレーゴ=どういたしまして」と答えるのが一般的ですが、別の返し方で「ディ・ニエンテ」と返すことがあります。 意味合いとしては「いいの、いいの!」とか「気にしないで!」みたいなニュアンスで、僕も「そんな感覚で在りたいな」と思ったんです。

例えば、僕は漆の濾紙を観て僕はうちわを作ってみたけど、それ自体は大した事じゃなくて、それよりも「あなたならどうしますか?!」ぐらいの感覚というか。そんな感覚が伝播すればいいと思っています。 ーいいことと思いつつ、商売っぽさが見えません。 見城 そうなんです、商売が下手なんです。考えれば考えるほど、お金に直結しないようなことになってしまうというか・・・。最近諦めがついてきました(笑)。 ーお客さまに伝えたいことも「発想の転換一つで人生豊かになる」ということで、「モノを買えばいい」とか、そういうことではない。 見城 そうですね、「皆さんなりの価値の転換を面白がって欲しい」という感じです。(笑)。 ーすでにかなり満足な状況を実現されている気もしつつ、お店の今後についてどう考えていますか。 見城 内情は、まだまだ全然プロダクトをつくれていないし、資金にゆとりがあればもっともっとつくりたいです。僕らがレスキューできている生地も、大量に廃棄されてしまう素材のほんのひと握りでしかない。ポテンシャルがあるのに、みすみすスルーしている素材も多いですし、もっといろいろなモノづくりにチャレンジしたいです。 なのでみなさん、"いいな"と思うものがあったらぜひ買ってください(笑)。

ーお客さんの反応はどうですか? 見城 アップサイクルだからというよりは、単純にプロダクトを気に入って選んでくださる事がほとんどです。営業が得意じゃ無いので、コツコツやっていくことでちょっとずつ認知を広げ、救える素材も増えると、自分としては嬉しいです。 ー無理して大きくしようとも思われていない。 見城 いや、めちゃくちゃしたいですよ(笑)。 例えば廃校とか。地方でもいいし、そういう場所の活用みたいなことができたらと思います。 お店を開くにあたって考えていた事ですが、ECでなんでも買える便利な世の中だからこそ、あえて「場所」の価値を再構築して行きたいと思っています。モノを売り買いするだけじゃない、人が集まり交流が生まれ、育まれるグルーヴ。 もうちょっと複合的な「場所」としての価値を体現できたらいいですね。

ーだんだんネットの影響で「店舗なんて流行らない」みたいな、誰もがそこに価値を見出せなくなってる時に、実はすごい挑戦をされている、その言葉もお好きじゃないかもしれませんが。 見城 いや、めちゃくちゃ挑戦しています。最初の頃はがむしゃらにワークショップやイベントをやって、むっちゃ疲れました(笑)。 ーでも、楽しかった? 見城 楽しかったです(笑)。 そんな簡単にはいかないと思いますが、自分なりの場づくりを面白がりたいと思います。

ーこの方向から見るとモノの見方が変わったり、面白いみたいなことに気づいた原体験的なことはありますか? 見城 パッとは浮かびませんが、静岡の田舎の方で育って特に遊びがないんです。まわりは山が多くて、お茶畑があったらお茶飲みで遊んだり、 川辺とか、公園でコースをつくって自転車で障害物とかをつくりながら遊んだり、遊びはよく考えてたかな。 あっ、一つ強烈なのがありました。僕の家はおじいちゃんも父も牧師で、生まれた頃からキリスト教の教育を受けて、何の疑いもなくその教えや「イエス・キリストが唯一の神様」ということを信じていました。つまり、他の宗教は違うものと思ってたというか、そういう風に教えられるんですね。 それで18歳の時、東京でフリーマーケットのサポートみたいなアルバイトがあって、会場を巡回してたら、イスラム人の方が定時刻にお祈りをはじめたんです。その姿がなんだかすごくきれいで、「この人が信じているものって、"嘘"とか"間違えてる"って言えるのかな」と。 そんな想いがフツフツと湧いてきて、その時も声をかけて「ご飯行きませんか? 」って誘ったんです。 ーそこでもお誘いを(笑)。

見城 それでお話聞いたら、むちゃくちゃいい人で。その時に「この人が信じているものを"違う"って思えない」という感触があって。そこから僕は「いろいろな宗教とか神様がいていいんじゃないか」と思うようになったんです。 それもやっぱり物事を観る角度が変わって、価値観がガラっと変わる、体験でした。本当に、僕の中ではかなりのインパクトでした。 ー気持ちのいい体験でしたか? 見城 気持ちよかったというか「あ、いいんだ」みたいな。可能性とか選択肢がひらけるというか。

それで言うと、今は仏教的な考え方が一番しっくりくる感じです。すごく詳しいわけではないですが、ある仏教の本を読みながら、ニエンテのやってることは「空だな」みたいな不思議な共鳴感がすごくあって。「価値があるとかないって、自分が認識してるだけ、あるようでないもの。ないようであるもの。結局はまわりとの関係性であったりなかったりする」みたいな。「これこれ!」と思いました。 ーお寺の会報誌みたいなところにも出稿されていたのを拝見しました。 見城 あれはたまたまです。遊びに来てくださる方が「禅の友」という曹洞宗の冊子の編集をされててお声がけいただきました(笑)。 ーモノ、人に対しても、いいところを見つける癖がついているように思えます。 見城 わかりませんが、その方が面白いじゃないですか。どうせ状況が変わらないなら、面白がった方が得というか、楽しいというか。 ー「面白がる」ことが大切。 見城 面白がれるかどうかが大事ですよね。 ワークショップもジャンルを選ばず、ノリで結構やってきました。誰かのきっかけを作れたらいいなと。 最近はもうちょっと部活みたいな方が面白いと思って、それで閉店後、段ボール部をはじめたんです。「みんなで段ボール工作で遊ぼう」というゆるい部活です。自転車って無尽蔵にも段ボールが出て、もうそれが当たり前だったんですが、最近になってふと「こんな大きい段ボール、結構遊べるんじゃないか?」と、気がついて(笑)。

「面白がって生きる。」 捨てられるものでも、見方を変えれば、こんなにも遊べる。 niente(ニエンテ)が取り組む活動は、すべてそこにつながっている。 店主・見城さんの話には、そんな気づきが詰まっていました。 「どうせ変えられないなら、面白がった方が楽しい」 ──その言葉は、これからの時代を柔らかく、しなやかに生き抜くためのヒントになるかもしれません。 今日も豪徳寺の小さなお店では、誰かが何かに新しい価値を見つけている。

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