18万人が集結!「MUSIC DON’T LOCKDOWN」のグランドフェス vol.1
読みもの|5.4 Mon

フライヤー タイムテーブル

メイン写真は左上から時計回りに、それぞれの場所、やり方、立場、プラットフォームから参加したいとうせいこうis the poet高木完氏須永辰緒氏Zeebra氏

  4月25、26日の週末、書き残しておきたいイベントがあった。
 遡れば3月25日、いとうせいこう氏が、小池都知事が記者会見で言及した東京の都市ロックダウンの可能性に機敏に反応。ツイッターで「音楽はロックダウンしないし、させない。そして音楽に関わる人たち、それを楽しむ人たちを封鎖させない」ということを呼びかけ、そのムーブメントは「Music Don’t Lockdown=MDL」と名付けられた。
 結果、それから一ヶ月後には日本、台湾、タイ、インドネシア、シンガポールから国境を超えてアーティストたちが集結。2日間にわたって、全ステージで18万人超が視聴した前代未聞のフェス『巣ごもりSP グランドフェス vol.1 powered by 17 Live』が開催された。

top画面

  いとう氏は「集まってきたのは”動乱”に強い人たち」、「新型ウイルスがつくりだした状況は、このフェスにおいて、エンタメの人たちには絶対いいはず。だって、人を楽しませれば(見ている人たちはおのずとステイホームすることになるので)、それが人を救っちゃうことになる」と語る。
 そしてもう一つ、大切なことは「自律分散型」であること。
 だから、演者それぞれは自宅やスタジオから、状況にマッチした各種プラットフォームを使い、時には一人で、または誰かしらの手助けのもと、慣れない無観客であろうが、画面越しに熱い想いを伝えてくれるのだ。
 MDLはグランドフェスに向け、3月28日(土)を皮切りに毎週末音楽、演劇、アート、落語、お笑い、トークといった、ジャンルも越境したあらゆるエンターテイメントとクリエイティブを巻き込みつつ、試行錯誤を積み重ねて配信してきた。

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NAZWA!のお2人は現在毎週月曜27〜29時、J-WAVE(81.3FM)「TOKYO M.A.A.D SPIN」も担当している

  「自粛と補償」が噛み合わない日本ではライブハウスや(DJが音楽をかける方の)クラブ、劇場に美術館といった場所が苦境に立たされ、発表の場を失う表現者たちが逼迫する状況は想像にたやすい。今のテクノロジーを駆使して、「クリエイエティブが死なない=ロックダウンされない」状況をつくることがジャンル、世代、国境まで超えて一丸となれる目的でもあった。その裏には、この前代未聞のフェス実現に奔走し続けている、発起人でもあるNAZWA!(WatusiとNaz Chris両氏によるDJユニット)や、苦しい中快く場の提供をしてくれる各会場、機材で支援くださったRolandIK Multimedia等々、まさに「音楽で繋がろう!」の大号令が頭の中でやまびこのように響き続ける。
 新型ウイルスの余波から生まれたMDLは、始める必要性がなければ、それが一番だったのかもしれない。
 しかし世界中の人々が命の尊さを改めて痛感し、その中で私たちの生活の潤滑油か、時には必要不可欠なガソリンそのものとして機能する「文化の役割」を、当事者たちも含めて考え直すきっかけとなったことは間違いない。

中島

  だからこそ毎回、このグランドフェスでもその冒頭には、歴史学者・中島岳志氏の連続講座が据えられている。氏は毎回、例えば故・立川談志師匠が落語は「人間の業の肯定」と定義づけていたことを引き合いに出しながら、コロナ後の世界に向けて「利他的であること」を、私たちに問い続ける。
 MDLはその成り立ち、取り組みの流れから、近未来を技術的に先取る取り組みとしても機能してきた。それはアーティストへの直接的な支援となる投げ銭の仕組みや利率、そこでかかる楽曲の権利問題、ライブ・コラボレーションの際のタイムラグ、視聴者参加型で当事者としての感覚を共有できるプラットフォーム探しなどを通じ、ある意味で必然だった役割とも言える。
 そして、あらゆる表現者が集結し、最新テクノロジーを使いこなす先で、いつも未来のスタンダードをいち早く提供してきたクラブの世界からも、その目的に呼応した重鎮たちがパフォーマンスを披露した。

2カット

世代を超えてリスペクトを集める2組。上はLAMP EYEから、ラッパーのRINO氏とDJはYAS氏。下はラッパ我リヤで、ラッパーはQ氏と山田マン氏の2人

  日本語ラップの金字塔『証言』を生み出したシーンの最重要グループの一つLAMP EYEや、執拗に韻を突き詰めるスタイルで頭角を現し、Dragon Ashとのコラボでも名を馳せたラッパ我リヤがそこにいた。また、最近も渋谷の老舗クラブ・Organ Barを救うクラウドファンディングを見事に牽引したDJの須永辰緒氏も、Watusi氏を迎えて『家飲みJAZZ』と冠したプレイで華を添えた。
 もともと別のプロジェクトでいとう氏との交流を深めていたみんな電力も、このままでは大打撃を受けるカルチャー界を支援すべく、早くに協賛を決めた。

ダースレーダー

ラッパーのダースレイダーとDUB MASTER X両氏それぞれが自宅から、ネット回線上で実施したLIVEコラボをダースレイダー氏のYoutubeチャンネルから配信

  電力会社の視点からはグランドフェスに至る前にすでに、特筆に値する試みがあった。それは4/11(土)、環境破壊を続けてきた人類の営みが原因との指摘が相次いでいる。であるならば、せっかくの最先端のクリエイティブが化石燃料などの電気を使って環境を破壊し、ウイルスを活性化させるのでは本末転倒になってしまう。
 今や、音楽レーベルにクラブなどの切り替えも進んでいる中、制作から演奏まで、すべてが再生可能エネルギー由来という音楽も可能になった。もしもこの騒動を期にそういったことが当たり前になれば、それは地球上のあらゆる生き物にとってプラスでしかない。そのセッションは、コロナ後の社会に向けた試金石と言えるのだ。
 思い返せば3.11以降の福島では、農業の現場で「ここでは全国の地方都市、過疎地域が水面下で抱えている問題が、原発事故によって早送りされて顕在化した。だからこそ、それらの問題を乗り越えられれば、最前線で全国を牽引する立場になれる」ということが語られていた。つまり現在の苦境も、将来的に取り入れる必要のあったシステムにいち早く取り組む、絶好の機会と捉えることもできる。

ラサール石井

会長の清水宏氏率いる”日本の新しいエンターテイメント”スタンダップコメディ協会も参加で、ラサール石井氏、ぜんじろう氏、インコさん氏もMDLに登場している

  今は社会が一気にシフトし、否応なく新しいフェーズへと入ろうとしている。リモートワークへの転換や朝の満員電車からの脱却もままならない社会を横目に、「転んでもただでは起きない」カルチャーはいち早く未来を先駆けている。
 一つ、私たちが忘れてはならない事実は、1918年に猛威を奮ったスペイン風邪も、経済活動を再開させた第二波の方が犠牲者を多く出したこと。この”動乱”が続く間、MDLも続く。

マスク

曰く、「マスクをしていることを格好良く」(いとう氏)を実現させるべく、Black Donuts/縫布鯉口の特製マスク。ビンテージ生地で、パチモノななめ猫に想いが

緊急事態宣言を受け、毎週水曜の週1から月木の週2更新にアップデート中のENECT。木曜のインタビュー記事もお楽しみに

 

(取材・文:平井 有太/撮影・写真提供:大石英司、Naz Chris)
2020.4.27 mon.
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