【第1回】中島恵理|日本のエネルギー、行政の現場から
読みもの|4.15 Mon

高遠ダムと高遠発電所_愛称-高遠さくら発電所_長野県

長野県にある高遠ダムと高遠発電所(愛称:高遠さくら発電所)。一帯は桜の名所としても有名

  2017年4月から、長野県の自然資源でつくられたエネルギーが、世田谷区内42の公立保育園、3つの児童館に供給されている。それは、同県伊那市の「高遠発電所」と長野市「奥裾花第2発電所」のダム式発電所でつくられる、放流水を活用した水力発電のエネルギーだ。
 この先駆的な取り組みは保坂・世田谷区長の熱い想い、豊富な実績を持つ丸紅新電力、そして「顔の見えるでんき」を掲げるみんな電力の協業で実現したが、もちろん長野県にもキーマンはいた。
 それが、地域と地域がエネルギーを軸として繋がった、国内初と言える基礎自治体と広域自治体における自治体間連携の可能性を信じ続けてきた中島恵理・長野県(元)副知事だ。本年4月に環境省に戻る直前、長野県庁で伺った話をお届けする。

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先日実施された、エネルギーを軸に繋がった長野県と世田谷区の地域間交流については、コチラの記事を参照。アルクマくんの登場に子どもたちは歓喜

アルクマくんがすごい人気でした。
中島 そうなんですね(笑)。そういったかたちで、子どもたちの環境教育も含めて繋がっていけることはありがたいことです。
ーこういったエネルギーを通じた地域間連携は、日本初のケースかと思います。
中島 自治体間交流でも、こういった「中山間地の長野県が都会に電力を供給する」という意味での発信はすごくありがたく、重要だと思っています。
 地域間連携は結構あるにはあるんですが、それらはエネルギーには直接関係していません。例えば伊那市と新宿では、「森の保全」という観点から伊那市に子どもたちに来ていただいて里山管理に関わっていただいていますが、県が積極的に県の資源を供給するという意味でのエネルギーの分野では、初めてになります。長野県から都会への供給は、本当にありがたいと思います。

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水力発電の仕組みを解説するためのジオラマ。県庁のモノは世田谷区の赤堤保育園に持っていったモノより一回り大きい

ー副知事はこれまで経産省、環境省、環境庁、エネルギー庁と、日本のエネルギー事情の最前線に常にいらっしゃいました。もともとご興味があったんでしょうか?
中島 様々な仕事をする中で関心を持っていったという感じです。
 私は環境省での経歴が長いのですが、環境行政は規制をすることが多いんです。企業さんとか関係者と前向きな関係を築くのが難しいと言いますか、それはいつも「これはやっちゃいけません」という規制側の立場であるからです。でも、自然エネルギーは「新しくつくり上げること」なので、常により前向きに自治体や企業とも一緒になれて、環境行政の中でも「一番面白いな」、「やりがいがあるな」と感じてきました。
 最初に関わったのは、環境省時代の地球温暖化対策で、まさに京都議定書が締結するかどうかという2000年前後の頃でした。京都議定書が実際に批准できるかどうか、実はとても大変な経験でした。そういった中で再生可能エネルギーについても、固定価格買取制度の前の制度である「RPS法」ができるか、FITができるかという運動もあってその渦中で、その流れの中で関わったのが初めてでした。
 そこから経済産業省でRPS法の担当をし、長野県では東日本大震災後ですが、再生可能エネルギーを推進する立場になって、ずっとその過程を見ながら、環境行政における非常に前向きな側面を見てきました。それはSDGs的に言えば、環境保全や経済発展はもちろん、やり方によっては社会福祉の問題解決にも繋がるという、非常に面白く、やりがいのある分野と思っています。
ーエネルギーの面白さについて、もう少し詳しくお聞かせ願えますか?

dav

中島(元)副知事と企業局の皆さま

中島 何よりも、「地域の活性化に繋がる」ということがあります。
 一つ例を申し上げますと、私はここの副知事になる前に2年間、温暖化対策課長をしていました。その当時、市民の皆さんが自然エネルギー事業を立ち上げる支援をしてきました。その中で最も印象深かった取り組みがあります。
 それは、様々な主体が参加できる「相乗りくん」というものです。上田市にあるNPOの藤川さんという女性が理事長です。彼女は、長野県が立ち上げに関わった「自然エネルギー信州ネット」という官民連携の団体への参加を契機に事業を立ち上げ、平成30年度の環境省グッドライフアワードも受賞しました。
 相乗りくんは一つの市民共同発電所みたいなもので、大きな屋根を持っている家主に屋根を使わせてもらって、全国からパネルオーナーを募集してパネルを設置していくという事業です。そういった事業を一市民であっても、一女性、そして一主婦であっても実現でき、同時にその「相乗りくん」の仕組みを通じて家主、パネルオーナーたちで、エネルギーを通じて繋がりを創出できると。それは、とても素晴らしい取り組みでした。
 加えて再エネは一般企業の、社会的企業化もできます。これは言ってしまえばみんな電力さんもそうかもしれません。
 その時はサンジュニアさんという企業も、自然エネルギー信州ネットに加わってくださっていました。基本的には太陽光発電や太陽熱利用の設備を売っている事業者が、いろいろな市民団体と付き合う中で、この時のケースは、彼らはある中学校の屋根を借りて太陽光発電設備を設置し、それとは別に社会貢献として、中学校に対してLEDや非常用電源を寄付してくださったんです。そういうかたちで、企業自身も再エネを通じて「社会企業化していく」と。
 そういったことも見ながら、再生可能エネルギーを軸としながら、それを通じていろいろなビジネスに発展させていけることを実感していきました。
ー個人、企業、自治体がエネルギーを通じて繋がっていける。

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日照率が高い長野県東信地方の屋根に太陽光パネルを「相乗り」させて、自然エネルギーを増やしながら売電収入をシェアする「相乗りくん」

中島 それも環境保全だけでなく、地域の事業にもなれば、LEDが普及したり非常用電源を確保することで、社会的なことにも繋がっていきます。ですから、その過程でご一緒できるということは、誰かに「それはやっちゃいけない」という規制ばかりでなく、ポジティブな方向へ一緒に歩めるということでした。
ーエネルギーにまつわるすべては、日本社会はまだまだ不慣れと思いがちですが、最前線で頼もしい事例をいくつも見てこられた。
中島 「電力自由化」というのは、ようやく日本でも起きましたし、みんな電力さんのような会社が出てきたのもその賜物であると思います。ここまで長い時間かかりましたが、地域新電力のように、電気を売りながら少しずつ社会貢献的なこともやるような事業体が出てきたのも、そんな流れがあってこそだと思います。
ー日本という国をエネルギーを通じて見た時に、その利点と弱点を挙げていただけますか?

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中島 まず太陽光に関しては、明らかに条件はいいですね。ヨーロッパよりも日照率はかなり高いですし、ここ長野県はさらに温度も冷涼なので効率も高いということがあります。
 小水力も長野県では、農業が盛んで農業用水路が多く、標高差もあるので適地です。逆に風力は、海外や国内の他の地域と比べて厳しいかもしれません。ただ全体的にはそこにバイオマスも含めて、資源利用の可能性は豊かだと思います。
 弱い部分としては、私は経産省時代に風力発電の系統連携対策にずっと携わってきました。系統の問題に関わる中で、国土が小さい上に北海道とか九州とか、電力会社ごとに系統が分かれているので、それは「再エネを大量に入れる」という観点からは不利です。
 ヨーロッパの場合はヨーロッパ全体で受給バランスをとっています。しかし日本では10年ほど前から風力発電が北海道で、太陽光も最近九州の方で系統接続が難しくなってしまっている部分があって、それは系統の空き容量に原因があるんです。
 そもそも、再生可能エネルギーの優先順位が低いですよね。例えばヨーロッパだと、原子力発電を含めて出力を調整させていて、中でも再エネが一番優先して流されています。それ以外のものはその後から融通されていきますが、日本の場合はその順位が違うんです。だいぶ変わってはきましたが、再エネが有利な仕組みにはなっていません。
 長野県に関する問題としては、再エネが普及している一方で、自然環境や生活環境への影響が懸念されています。大規模なメガソーラーは森林伐採を伴うことがあるので、地域では再エネに対する、若干のアレルギー的なものが出てきてしまっている。
 ですから、本来環境にいいものであるはずが、自然保護や環境保全を掲げる人たちの反対が始まっています。今長野県では、なるべく既存の屋根をつかって太陽光発電をしていただけるように「ソーラーマッピング」という取り組みも始めました。建物毎の発電のポテンシャルを誰もが見れるような仕組みを準備して、なるべく環境への影響が少ない太陽光発電に誘導し、普及するようなかたちに変わりつつあります。
 つまり、ポテンシャルはあるんだけれども、一つには制度面に課題があるのと、現場となる地域には環境保全との調和の問題がありますね。

長野県庁2_長野県

 

行政の立場から、あらゆるエネルギーを通じた取り組みを見てこられたからの見解と説得力。
どうしても優先順位が低いままな再エネをどう上げるか、来週の記事公開をどうかお楽しみに

 

(取材:平井有太)
2019.3.4 mon.
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