【第3回】ACE × 華井和代|エシカルでフェアなバッテリーをつくる
政治的に不安定かつ、構造的な強権と搾取、そして児童労働の先で採掘された鉱物の問題は決して対岸の火事ではなく、実はスマホやIT機器、電気自動車などのかたちで、私たちの生活に当たり前のように存在している。
スペシャル記事の第3回となる今回と最終回は、鉱物にまつわる様々な問題について、前述の2人に加え、ACEからは近藤、原田の2氏、みんな電力からは代表の大石と長島を交え、Q&Aと対話が織り交ざったかたちとなった。
複雑かつ、意識していないだけで実際に私たちのすぐ身近にある問題。まずはそれらを自分がリアルに感じるところから、このプロジェクトは始まっていけるかなと思います。
労働者が労働組合をつくり、組合が鉱山を運営するというかたちです。
特に北欧の企業では、コンゴ政府に税金を納めても現地のために使われないので、自分たちの利益の一部を直接、労働組合に投資したり、学校を建てたり、環境整備をしたりする例があります。ただ、コバルトではどうなのかは、わかりません。
また、地元のコンゴ人の市民団体が労働組合を支援しているケースもあって、そこに住んでいる方々がやっている取り組みも存在します。
ただ私は過去にコンゴ人の共同研究者に言われてショックだったことがあります。それは、「日本人は基本的に政府や警察を信用しているだろう?だけどコンゴでは、政府や警察は、市民を守る存在ではない。日本の感覚でコンゴを見てしまうと、この国を理解することはできない」ということでした。
ですので、そんなにすぐに地方の政府や警察が、「自分たちが市民を守り、ガバナンスをする存在なのだ」というように変わるということは起きないと思います。
そこに変化の兆しはありますか?
コンゴの鉱業では何事においても、企業が優先されます。企業が採掘する地域を先に決めてしまって、その企業が選ばなかった場所に手掘り鉱地域が設定されます。ですが、治安の悪い地域では、企業が採掘権を持っていたとしても操業リスクがあります。
リスクのあるところに企業は手を出したくありません。そうするとその鉱山は放置され、でも掘れば鉱石が出ることもわかっているので、人々が山に入って行って、結果として勝手に手掘り鉱山になってしまうケースが生まれています。
それでは、「政府はそこを手掘り鉱地域に指定すればいいのか?」というと、もともと企業が契約で採掘権を持っていたりもするので、それはそれで「正式には認められない」ということになります。
ですので、そもそもコンゴ政府が手掘り鉱地域を設定する方法や優先順位に問題がある可能性があると思います。
けれども、大規模鉱山は機械を使って操業しているので人数が必要ない、しかも機械を使えないとならない、コミュニケーションの言語の問題などがあり、小規模手掘り鉱の地域にいるような労働者が雇ってもらえるのかというと、そうはなりません。
それよりも重要なのは、もともとはそれらの地域も農業地域だったはずなのです。特に手掘り鉱地域は、たいてい以前は農業をやっていました。ですから、ちゃんとその地域に農業を取り戻すことが重要です。
しかし同時に、農業の生産性がどこまで上げられるのかという現実もあります。「はたして農業で食べていけるのか?」という問題の議論は、また別に必要です。
一方で紛争鉱物、つまり東部の場合はウガンダ、ルワンダです。その2国に密輸が行われているということは国連のレポートでも出てきていますので、ウガンダとルワンダをどこまでチェックできるかということは重要になってきます。
現地で活動している認証機関の方々の話を聞くと、現場で働く方々は、どこに問題があるかがわかっているようです。ただその2国は強権的な国家で、たとえNGOや認証機関が問題を把握したところで、市民運動などは起こせません。
ですので、ウガンダとルワンダに影響力を持つ欧米諸国などと連携をとり、働きかけていくような方法が必要になっていくかと思います。
たぶんほとんどの人が、これだけ皆で当たり前に使っているスマホやIT機器の成り立ちの実態を知らずに、自分を含めてある意味頭がお花畑と言いますか、今回は反省もあり勉強にもなって、ありがとうございました。
今、最終製品でフェアな部品が使われているという表示がされているものは、ありません。その中で、もしモバイルバッテリーでフェアなものであれば、自分で考えても、たとえ500円高くても買うと思うんですが、なぜどの会社もそれをやらないんでしょう?
なぜ、こういった取り組みに参加している大企業さんも、自分たちの製品にそういった認証を表示するようなことを”しない”のか、その理由がもしあれば、知りたいです。
以前、ある企業が紛争フリーを謳った商品を発売したことがありました。それは非常にいい取り組みでした。もともとその企業は自社の製品で使用している原料や化学物質、どこから調達したかなど、すべてのデータを蓄積していました。そのため、紛争鉱物問題が出てきた時に「ウチならトレーサブルで紛争フリーな商品をつくれる」ということで、商品開発したのです。
ですが、今は積極的な宣伝を下げています。
なぜかというと、現在世の中で、この問題はあまり知られていないわけです。その中で一社だけが宣伝をしてしまうと、逆に「その会社だけが問題のある調達をしてきたのではないか」と思われてしまう。
つまり企業ABCDがあって誰も何も言っていないのに、A社だけが紛争フリーであることを表示すると、それが全社に関わる問題であることが伝わらず、「A社だけが問題を抱えていたのだろう」という評価になってしまう。それが怖いので、どの企業も積極的なアピールをしないでいるのだと思います。
数年前の世の中の状況に対して、現在のSDGsやESGがかなり浸透しつつある流れの中で、それが一つの商品を売る強みにもなる気がします。
そこを積極的に出していこうという流れは、今どこかであるんでしょうか?
例えば私が話を聞きに行くとよく話してくださるのですが、メディアが取材として行くと、「ちょっとその話は」とお断りされてしまうと耳にします。
そこは本当に、もし各社がしっかりちゃんとやっているのなら、今後可能性があることじゃないかと思います。
多岐に渡る上に深く複雑な問題を、時間内で的確にまわし、聞き手にわかりやすいように展開させてくださったのは、司会のACE・及川さん(右上)
ですが、お隣の中国がどこまで厳密にやっているかは不明ですし、サプライチェーンの上流の方で、監査をやっている周辺国で聞いてみると「あれ、これって認証タグがついているけど、その鉱山から来てないよね?」みたいなことも発生しています。
サプライチェーンの上流に行くほど、取り組みがあやふやにされてしまっているのです。そこには日本企業もフラストレーションを感じていて、自分たちはできる限りやっているのに、知らないところで、実は「ウォッシュ」されてしまっていると。本当は徹底的にやりたいのに、そんな状況では、責任は結局川下の企業に問われてしまうわけです。
岩附 由香
認定NPO法人ACE代表。1997年大学院在籍時にACEを創業。
上智大学文学部、大阪大学大学院国際公共政策研究科修了後、NGO職員、会社員、国際機関職員、フリー通訳等を経て、現在はACEの活動に注力。
人権・労働面の国際規格SA8000社会監査人コース修了、CSRに関する知見を持ち、これまで大手上場企業のステークホルダーエンゲージメントに参画。
児童労働ネットワーク事務局長、エシカル推進協議会理事。
2019 年「G20 市民社会プラットフォーム」共同代表、2019 年 C20(Civil20)議長
華井 和代
東京大学 未来ビジョン研究センター 講師/NPO法人RITA-Congo共同代表。
筑波大学人文学類卒(歴史学)、同大学院教育研究科修士課程修了(教育学修士)。
成城学園中学校高等学校での教師を経て、東京大学公共政策大学院専門職学位課程修了(国際公共政策学修士)、同大学院新領域創成科学研究科博士課程修了(国際協力学博士)。東京大学公共政策大学院特任助教を経て2018年4月より現職。コンゴの紛争資源問題と日本の消費者市民社会のつながりを研究。同時に、元高校教師の経験を生かして平和教育教材を開発・実践している。
主著は『資源問題の正義―コンゴの紛争資源問題と消費者の責任』(東信堂、2016年)。
(撮影:今村拓馬)
公開勉強会に続くQ&A、いかがでしたでしょうか。フェアなバッテリーへの長い道程、次回最終回は7/16(木)の公開です