【後編】「道」で出会ったウクライナ人、アレクセイさんをタドる
読みもの|7.1 Fri

 去る5月27日、前代未聞の、六本木ヒルズにある森美術館内で開催された「手打ち野球」。
それは同月29日で閉幕した『Chim↑Pom展:ハッピースプリング』に現れた「道」の上で、「道を育てる」一環として行われた。そもそもは協賛に入ったUPDATERの発案で、そのスペシャルゲストとして招かれた、ウクライナからの避難民・アレクセイさんは、ウクライナに野球はないものの、とても楽しい体験だったと喜んだ。

写真は嬉々!!CREATIVE、左からTAROさん、KEIKOさん、トモヤテンチョさん(左下)や、
応援団としてASA-CHANGさん(右上)、Chim↑Pomメンバーもお三方参加で、とにかく豪華

 日本語はモスクワから取り寄せた本で学び、英語はカリフォルニアに留学し、大学で心理学と一緒に学んだという同氏。「これは、アートの中に人間がいる作品です」「この野球は、とても重要な機能を果たしていることを、すぐ理解しました」というコメントに、鋭い洞察力に垣間見た。
故郷が侵攻され、思い出の詰まった場所から避難しないと命が危険に晒される状況は、どうしても私たちにとって、想像できる範疇の外のこと。少しの間でも実現した、多様性が具現化した珍しい現場を経て、平和な日本でアレクセイさんが何を想うのか。
なるべくご自身の言葉に忠実に、お伝えします。

ー日本に来られて、心が落ち着きましたか?

アレクセイ まずポーランドについて、安全を感じることができました。その後ドイツに行って、もっと安全性を感じました。今、日本での滞在ですと、非常にウクライナの戦争の現場から遠い国なので、私はとても安心しています。

ー今後何年くらい日本にいないといけなくなると思いますか?

アレクセイ 計画は立てられません。未来は何がどうなるか、私に予想することができませんので、その時がきたら考えられたらと思います。
日本は他の国と比べてとても安全です。私は政治について話すことがあまり好きではありませんが、ここは全体的にいい国です。「平和」とは「戦争がない状態」のことを言います。

ーウクライナでは過去原発も爆発するし、大変なことが続きます

チェルノブイリのゾーン内ガイドとして活躍するアレクセイさん

アレクセイ 原発と原子爆弾は、特別な問題です。もちろん核兵器をプーチン大統領が使うことになれば、それは全世界にとってとても悪いことになると思います。もし核戦争がはじまると、世界のどんな国でも、それは日本も含めて、安全な場所はなくなります。

ー今のところ安全な日本で、日本人に何をして欲しいですか?

アレクセイ 今のところ最も強いサポートは、軍事の分野のサポート以外に、経済的な協力にあると思います。日本法律の制限によって、日本の軍隊は外国で活動できません。日本の軍は軍隊ではなく、自衛隊と言いますね。ですからウクライナは、日本の軍がウクライナを助けることを望んでいないと考えております。

ー経済的なサポートとは、具体的にどのようなものでしょう。

去る5月12日、日本に到着しそのまま木場EARTH+GALLERYでの、
写真家・中筋純「ウクライナ・チェルノブイリ」展に来たアレクセイさん

アレクセイ それはでも、すでに実現しています。ウクライナから「本当に、ありがとうございます」と申し上げたいです。

ーゼレンスキー大統領は、そのお金で武器を買ってはいない、、?

アレクセイ 私は詳しいことについて、あまりわかっていません。でも、日本から贈られたのは武器ではなくて、軍人の身体を守るシステムだったはずです。その他にも、いろいろな医療薬品もあったかと思います。
プーチンの軍に勝つ義務は、ウクライナの義務です。日本の義務ではありません。

ーウクライナはプーチン軍に勝てますか?

アレクセイ はい、私はそう信じています。それがもし明日起きることではなくても、時間が経っても、必ずウクライナが勝ちます。どうしてそう思うのかと聞かれたら、私には答えがあります。
今回の闘いは、一つの国の闘いではありません。全世界が軍事サポートを含めて、ウクライナを支援しています。アメリカ、イギリス、ヨーロッパ諸国、オーストラリアさえもサポートを表明してくれました。全世界でプーチンと闘っていて、だからウクライナが勝つのです。

ーとにかく、早く争いがなくなって欲しいと思います。

アレクセイ もちろん。当たり前です。

ー日本の市民が、アレクセイさんにできるサポートは何でしょう?

日本に着いてからも忙しくしているアレクセイさん

アレクセイ それは何か、考えてみましょう。今すぐ答えることは、難しいです(笑)。
日本では国家以外にもサポートがあるそうで、例えば日本財団からの支援があると聞いています。もしそのサポートを受けることができたら、私は幸せです。仕事については、私が一生懸命探す前に、仕事が私を見つけてくれています。あちこちから私に、例えば翻訳の仕事など、「できますか?」と、信号が送られてきています(笑)。

チェルノブイリで出会い、今回受け入れを実現させた写真家・中筋純さんが
アレクセイさんのためにつくった絶品ボルシチ

ーそもそもロシアが攻め込んできたことは、想像できていたんでしょうか。

アレクセイ 私にとって、驚きはほとんどありませんでした。それが実現する予感は、ありました。今まで、あまり強い感情はありませんが、当たり前に悪いことだと思っています。すべてのきっかけは、プーチンさんの気の狂った考え方だったと思います。
以前、ロシア市民とプーチンさんの考えにも違いがありました。でも今、報道によると70%のロシア国民がプーチンさんの政策に同意しています。プーチンさんの考え方が国民に流行性の病気、ウィルスのように、脳みその中に入り込んだんです。それはとてもよくないことです。
今、これはプーチンさん一人の戦争ではなく、ロシア国民としての戦争になりつつあります。

ーアレクセイさんは、ロシア国民のいいところも知っているのではないでしょうか。

手打ち野球会場となった、六本木ヒルズ・森美術館の壁

アレクセイ 私は、プーチンさんと同意しないロシアの人々のことも知っています。でも、そういう人はどんどん少なくなっています。難しい問題ですが、でもすべてを「複雑だから」と言ってしまうと、そこにあまり深い意味がなくなってしまいます。

ー今日の手打ち野球は面白かったですか?

当日が67歳の誕生日でもあったアレクセイさんからのお礼の挨拶に、参加者みんなで聞き入った

アレクセイ はい、とても楽しかったです。もし、またこのようなイベントがあれば、呼んでください(笑)。何が起きるのか、自分ではまったく想像できなかった、信じがたいほど面白いイベントでした。今日は疲れてしまって、ごめんなさい。
私は日本国内にもっと長く滞在できれば、より明るいメッセージを発信できます。今はまだ入国したばかりですから、まだ皆さんに伝える言葉を考えることが難しいです。私は戦争の国から来たばかりで、ご理解いただけるかと思います。
これは私個人の意見ですが、日本はとても安全で、いい国だと思います。日本国民はとてもい人たちで、日本の明るい未来をお祈りいたします。

英語では”ALEX”のアレクセイさん、ウクライナ語でのお名前の綴り
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記事を作った人たち

タドリスト
平井有太
エネルギーのポータルサイト「ENECT」編集長。1975年東京生、School of Visual Arts卒。96〜01年NY在住、2012〜15年福島市在住。家事と生活の現場から見えるSDGs実践家。あらゆる生命を軸に社会を促す「BIOCRACY(ビオクラシー)」提唱。著書に『虚人と巨人』(辰巳出版)など