業界屈指のカカオトレーダーにインタビュー!カカオ生産地の現状をタドる
読みもの|2.14 Mon

地球の裏側にある3つのカカオ産地の問題を、一枚のタブレット(板チョコレート)につき

100円のプレミア(応援)金を加えることで、サポートできるチョコレートのセット「タドれるチョコレートシリーズ」。

このチョコレートの実現には、品質が高いカカオ豆を提供してくれた「立花商店」のご尽力があります。

カカオトレーダーとして活躍する、立花商店 取締役の生田 渉さんに、「タドれるチョコレートシリーズ」の応援金が届く生産地の実情について教えていただきました。

実際に足を運んで目にしてきた、生産者の現状について熱く語る生田さん。

ソーシャルトレーディングカンパニーとしてチョコレート業界を牽引する

今の日本において、生田さん以上にカカオ産地を熟知する人はいないといっても過言ではありません。

立花商店が、カカオ豆輸入の第一人者となったのも、彼の貢献が大きかったといえるでしょう。

では、生田さんをカカオの世界へ導いたきっかけは、何だったのでしょうか?

「初めてカカオ生産国を訪問したのは、2004年のこと。西アフリカのガーナでした。当時は、輸入商社に入社して数年たった頃。木の実の担当だったこともあり、すでにカリフォルニアのアーモンド生産者の方々にお会いしたことはありました。彼らは、みな裕福で絵に描いたような成功者の姿でしたが、同じ生産農家でも、ガーナのカカオ生産者たちは日々の暮らしにも困るような実情。絶妙なバランスで深い味わいを生むアーモンドチョコレートとは裏腹に、2つの素材の生産地の収入が天と地ほども違っていることに衝撃を受けました」と、生田さんは語ります。

 生田さんの中で、その時に感じた“理由なき不公平感”。それを払拭したいという思いが、だんだんと強くなっていったそうです。その後、取引のあった立花商店に誘われ、転職したことを機に、カカオの世界に深く関わるようになっていきました。

「12年ほど前に私が入社するまで、立花商店では、カカオ豆の輸入は行っていませんでした。当時は、世の中でカカオ豆がフルーツであることも知られていない時代。商社は、消費者と直接関わることはないので、カカオ豆の産地の実情を啓蒙したくても機会がない。また、いいカカオ豆を高い金額で購入してくれる納入先を増やさなければビジネスとして成り立たない。そこで、お客様である製造メーカーにカカオ産地の現状を知って頂くことから始めようと思いました。世界的に抱える生産者たちの貧困を今すぐ救うことはできなくても、サステナブルなカカオを広げる活動をしようと思いました」

 その一つが、2012年にジェトロとともに行った開発輸入実証事業。2年間にわたり、シエラレオネで生産されるカカオ豆の品質改善事業に取り組んだそうです。それが元となり、社会の課題を事業により実現する企業=ソーシャルトレーディングカンパニーとしての実績を築くことができ、賛同するメーカーやパティシエ、ショコラティエに生産者が喜ぶ価格でカカオ豆を売ることができる機会が増えていきました。とくに、個人がさまざまな産地の豆を少量で購入できるプラットフォーム「チームカカオ」は、日本におけるビーントゥーバーの普及に一役買ったといえます。

「チョコレートの市場は、我々が少量でネット販売するようになるまでは、個人でカカオ豆を購入できる仕組みがありませんでした。『チームカカオ』では、約20カ国のカカオ豆を仕入れ、個人購入を容易にしました。同時に、売り上げを活かして、日本国内のフェアトレード認証カカオの推進、買い付け人がこないような秘境の産地のサポート、希少品種保全活動のサポートなどを行っています」

 その活動から、とくに着目した課題を持つ3つの生産地、ガーナ、ベネズエラ、フィリピンへ応援金をサポートできるのが「タドれるチョコレートシリーズ」なのです。

ガーナの児童労働をなくせるチョコレート

ナッツのような味わいが特徴で、重厚感のある味。日本人にもっとも馴染みがある味といえるかもしれません。

「タドれるチョコレート」の応援金は、ガーナでは「Ntobroso Tano生産者組合」のサポートに使われます。子どもたちが出稼ぎ労働で犠牲にならず、継続して学校に通えるように、カカオ農家の経営を改善し、収入を向上させる活動をしている団体です。生田さんは、この活動を応援できるようになった経緯を感慨深げに教えてくれました。

「ガーナの児童労働の課題を意識するようになったのは、児童労働撤廃のために戦う認定NGO法人ACEさんとのご縁です。ACEの活動が軌道に乗り始めた2015年ぐらいから、この組合に加盟している生産者のカカオ豆を扱ってほしいという声をいただいていましたが、実現までには時間がかかりました。なぜなら、ガーナのカカオ豆は、国がすべての販売を担っている為、単純に生産者に会いにいって、直接交渉をして購入することが禁じられていたため、ハードルが高かったのです。今でも、カカオ豆は、一年に一度、政府が買い付け価格を決め、品質の良し悪しにかかわらず、同じ金額で買い上げられます。それを、ガーナ政府から購入の免許を持つ商社だけが、支給されるものをそのまま購入するという基本の取引ルールがあります。それを、品質の高いカカオ豆を栽培する農家に適正な金額を支払って直接購入したいという依頼をしたのですから、簡単ではありませんでした。足かけ3年にわたって、政府と交渉を重ね、ようやく政府とガーナ国内の物流業者、立花商店の3社間契約で進めるのであればとお許しをいただき、実現に至ったのです」

彼らとその子どもたちの笑顔を守るために、「タドれるチョコレート」の応援金は使われます。

生田さんは続けます。

「実際に活動の効果を実感したことがあります。2017年に、今回応援金が支払われる団体の生産者が住むいくつかの村を訪ねた時です。村の様相が一変していたのです。初めて、この村を訪ねたのは2007年でしたが、当時はカカオ農家のニーズは、壊れた井戸や学校の修繕などインフラ整備にありました。ところが、10年経って、彼らの関心はよい品質のカカオ豆を栽培し、高額で販売した利益を生産者の間で分配し、それぞれの貯蓄に回すことへと大きく変化していたのです。ACEの取り組み然り、さまざまな活動が実を結んだ過程を実際に知れて、感動を覚えました」

 収入が安定し、貯蓄が増えれば、不当な児童労働は減っていく。幸せの連鎖の一端を「タドれるチョコレート」も一役買うことができるのです。

ベネズエラの原住民女性を守れるチョコレート

華やかで女性好みの味わい。フルーツの酸味もしっかり感じます。

ベネズエラでは、応援金は原住民女性を中心にした生産者団体「Chuao Trading」のサポートに使われます。チュアオといえば、世界最高の希少カカオを伝統的な製法で、生産・加工している土地。その伝統文化を継続、発展させることが目標です。

「カカオ豆の取引は、間に入る仲介者の役割が重要です。チュアオは、一時悪質な代理店によって、生産量が落ち込んだことがありました。年間40〜50トンの生産量があった土地が、25トンまでに減ってしまったんです。それを、現在、我々も取引を行っている熱心な代理店に変わってから、2年半ほどで35トンにまで持ち直しました。この代理店は、今までの買い付け金より高い値付けで豆を購入するのはもちろん、現状、植えられている豆の品種を分析し、何を増やすと生産量が増えるかなどを研究して、地域発展に貢献しました」

チュアオが、世界最高の産地としての地位を不動のものにするためにもサポートは必要です。

「立花商店は、チュアオの文化を守るために、コミュニケーション手段の確立をサポートしています。基地局で衛星を使ってインターネット接続ができるようにし、毎月の通信代を負担しています。これは、日本のメーカーやパティシエ、ショコラティエの声をフィードバックするために有効なんです。安定したネット環境を活かして、チュアオ村の生産者と日本の作り手を結ぶオンライン交流会を行ったこともあります。生産者の思いを届けるだけではなく、村の小学生が、ローカルな歌をブラスバンドで演奏したり、歌で披露してくれたのも印象的でした。高級産地=チュアオと、名前だけが一人歩きしていましたが、イベントを通して、生産者と購入者のお互いの顔がわかるようになった反響は大きかった。我々のサポートが、意味を持っていることを実感できた一つの事例です」と生田さんは嬉しそうにいいました。

フィリピンの希少カカオを守れるチョコレート

濃厚だけれども、軽やかさがあり、今までにない味わいという人も多いフィリピン産カカオ豆を使ったチョコレート。

フィリピンでは、「Criollo Blanco Trading」という団体へ応援金はサポートされます。希少カカオであるクリオロ種のフィリピンでの保全増産活動を行っている団体です。2016年に原木探しが始まり、現在試行錯誤中。2023年以降の収穫を目指しています。

「カカオ産地でアジアの占める割合はごくわずかです。生産量でいうと、65パーセントほどがアフリカ、20パーセントほどが南米で、アジアの存在感は圧倒的に薄い。それでも、アジアで生産するカカオ豆の重要性を伝えたいと思いました。産業として育てていく価値が大きいんです。チョコレート工場の一部をアジアに持っているメーカーもたくさんありますが、原料はガーナなどアフリカから仕入れているところがほとんど。今は、それでも成り立つかもしれませんが、人口が増えて、カカオが足りなくなってきたら、ローカルでカカオ豆を仕入れた方が有益です。アジアの中でも、なぜフィリピンかというと、ドゥテルテ大統領が就任した際に、自身の出身地であるダパオの産業であるカカオ生産に力を入れると明言したからです。もし、フィリピンでカカオ産業が盛り上がれば、アジアのカカオ栽培が発展すると手応えを感じました。まだ、他の人が注目していない土地ですが、希望が見えたので、フィリピンをサポートすることにしました」と生田さん。

応援金が生かされ、2023年以降、品質の高いクリオロ種ができるのが待ち遠しい。

ただし、フィリピンならではの問題も残っていると生田さんは懸念を示します。

「アフリカで、カカオ豆栽培が根づき、ここまで世界的一大産地になったのは、貧しい土地でカカオぐらいしかできる産物がなかったからです。一方、フィリピンは、フルーツやココナツなど他にも栽培できるものがたくさんある。だから、高く売れないと面白くないので、すぐに他の作物へ転換してしまう傾向にあります。品質がよくなければ高く売れないことを教育することが大切なんです。今回、サポートする団体に属するピーターさんという人は、それをよく理解していて、昔から実践しています。こういう人が、フィリピンのカカオ産業を支えてくれると思うので、サポートの結果がどう形を成していくかが楽しみでなりません。この事例から、フィリピン内での相乗効果も狙いたいと思っています」

日本のスーパーや百貨店で、フィリピン産カカオのチョコレートが並ぶ日も、そう遠くないかも知れません。

「タドれるチョコレート」への期待とさらなる課題への取り組み

「タドれるチョコレート」の生みの親たち。右から、生田さん、チョコレート製作を担当したクラウン製菓の鶴田さん、児童労働撤廃に尽力するNGO法人ACEの及川さん。

今回、NGO法人ACE と立花商店、立花商店の関連会社であるクラウン製菓とのコラボレーションで誕生した「タドれるチョコレート」。生田さんは、どのような点に期待しているのでしょうか。

「生産者とパティシエやショコラティエを直接繋いで、品質の高いカカオを高く売れるような関係が安定的に築けるのが理想的ですが、まだまだ小さい市場です。『タドれるチョコレート』は、改ざんができないブロックチェーンを導入して、応援金がどう使われたか誰にでも見える化する仕組みを整えましたが、この仕組みは、より大きな市場で有効な手段になるのではと期待しています。真にサステナブルなチョコレートが生まれるために、日本のチョコレート産業を担う人たちのヒントになればと願っています」

 日本のチョコレート産業は、いくつかの大手企業が2016年ごろからトレーサビリティの観点で産地指定をしてカカオ豆を購入するようになり、それまでより高い金額でカカオ豆を購入し、産地サポートを行う取り組みを行ってきたと生田さんはいいます。

「2021年からは、さらに高い応援金をはらって、品質のよいカカオ豆の生産を守る流れが本格化してきました。そして、現在は3~5年後を目途にサステナブルカカオ100パーセントにすることを目標に掲げています。しかし、“サステナブル”の基準について、まだ定義はあいまいな部分もあり、様々なプロジェクトが試行錯誤の状態です。我々としては、今年からACEさんとメーカーさんと組んで、現地への社会貢献のインパクトを最大化する新しい取り組みを行う予定です。企業の短期的なパフォーマンスで終わることなく、本当に生産者のためになる取り組みを日々模索中です。まだ日本は黎明期といえるでしょう。だからこそ、我々がよき指針となれるよう、今まで以上に心を砕きたいと思います」

 生田さんは、もっと先まで見据え、自分たち商社の使命をこんなふうにも考えています。

「ガーナなど、国家でカカオ産業がある程度支えられているところは、実は恵まれている国。ほかに、アフリカ最貧国と呼ばれるようなギニア、リビア、シエラレオネといった土地にもカカオ生産者はいますが、ほぼ支援が行き届かず、品質のよいカカオを生むノウハウや生産量を増やすアドバイスを受けられない状況にあります。内戦が8年ほど続いたシエラレオネなどは、少年兵として戦い、学校に通えなかった人たちが企業の中間管理職の立場にいるため、教育不足で国自体の発展が立ち遅れているなど、根深い問題も隠れています。こういった国を周囲の恵まれた生産地と同等レベルに引き上げ、品質を高め、その国自体をブランドとして知ってもらうことこそ、僕たち商社の存在価値があるのではないかと思っています。品質が悪いからと切り捨てるだけではなく、誰かが現金化して、未来へつなぐ人がいないと未来がないからです」

 そのためにも、消費者である私たちにできることはないかと尋ねてみたところ、こう返ってきました。

「サステナブルなチョコレート、生産地を応援するチョコレートを見つけたら、是非購入してください。それが一番のサポートになります。メーカーは小売店の需要がないと製品を作れない、小売店は商品が売れないと扱わなくなると数珠繋ぎで影響し合います。消費者であるみなさんが、関心を寄せて、買い続けることで、サステナブルなチョコレートは売れるという流れができることが重要なのです。極端に安い商品には、生産過程のどこかで歪みがあるという感覚も持っていてほしいと思います。さらに、一歩進めるなら、ACEをはじめとした社会貢献を行っているNGOなどに寄付をする方法もあります」

 「タドれるチョコレート」への関心も、そのひとつ。

最近、購入したチョコレートを、あなたはどんな基準で選びましたか?

あなたの選択は、ほんの小さな一歩でしかないかもしれません。それでも、変えられるチョコレートの未来があることを忘れないでほしいと思います。

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記事を作った人たち

タドリスト
小倉理加
フリーランスエディター&ライター。1972年東京生まれ。海外を含むラグジュアリー誌の編集部を3つ経た後、独立。メインテリトリーは、旅と時計、ジュエリー。現在、時計とジュエリーが目指すSDGsを追求中。趣味は、旅とハードリカーとワークショップ。長浜でウィスキー造りを行ってきたばかり。
カメラマン
小澤達也
静岡生、東京工芸大学写真学科卒。 出版社写真部勤務を経て独立、(株)StudioMugを設立。メンズ誌、時計専門誌、眼鏡専門誌などを中心に活動。