【第2回】dancyu編集長・江部拓弥氏に聞いた、食とエネルギーの話
読みもの|5.11 Thu

  dancyu編集長という立場だからこそ経験した、読者、日本人の性質らしきもの。
 それは、長い間に当たり前にそこにあり続けた、頑強な中央集権という社会のかたちに起因しているかもしれないし、実はすでに、それは食やエネルギーの現場から変わってきているのかもしれない。
 意外と暗いだけではなさそうな未来の鍵は、「The Choice is Yours」という、みんな電力も掲げるコピーに潜んでるでしょうか。
 全2回の江部氏インタビュー、最終回です。

 

ishi

見たことのないような、柚子の山、山、山。地元の農協も、この時期は大忙し

ー(初回からの続き)なんとなく、農家さんのあり方を思い起こします。
江部 だからこそ、そういった「幸せ」のかたちを伸ばすためにも、今の大都市一極集中型の社会はよくないと思うんです。絶対、もっと地方分散型な社会がいいんじゃないかって。
ーそこでまた、エネルギーと話が重なってきます。
江部 食の業界では、最近産直がすごく出てきて、みんなが自分でつくったものを販売所に持ち込むようになったでしょう。道の駅よりもさらに小さいやつというか。

ishi

無人売場には、近所で採れた野菜の他、絞りたての柚子果汁が「酢」とされて売っていた

 エネルギーだってそういうことでしょう?みんな、それぞれがつくったものを、持ち寄れはしないかもしれないけど、販売できるようになった。今まで自家栽培の野菜はお金にならないもので、だからといって自分で消費もしきれなかった。でも、そこをいい具合で地域経済としてまわせる仕組みがあれば、コストは安くなるし、需要と供給が合致する。
ーでは、dancyu編集長として社会を見渡して、今、食やエネルギーの世界は一応でもいい方向にすすんでいると言いますか。
江部 僕は、東京に集中する社会のかたちには、あまり賛成はできないんです。
 地産地消と別のかたち、、ワインやコーヒーなんかはいい例で、他国の富豪や大きい企業がある産地の農園を買い占めて、結果として値段は上がって、地域そのものはぎりぎり残るけど、それぞれの土地柄に合わせた創意工夫みたいなものが薄れていく。かたちとして、住民はある意味でその企業や富豪の従業員のようになって、それでそのオーナーの興味が別にいっちゃうと、一気に地域が廃れてしまう。
ー聞いていると、原発の仕組みとも似ている気がします。
江部 そうかもしれない。だから、大きい都市や企業に頼る社会のかたちは、ブームがなくなった時に怖いという。逆にもっと地域の、その場所だからこその作物の質の良さをアピールするような方向がいいと思うんだよね。大切な部分は、ビジネスとして捉えるんじゃなくて、あくまで農作物として扱うという。
 でもここは、僕も実家に帰ったりして、せっかく美しい景色なのに国道沿いのほとんどが東京と同じ店ばかりで、でも実際その話になると「おまえは東京にいるから、どれだけウチらが便利になってるかわかってない」とか言われちゃう。だから、「地方の良さ」とか言っても難しいのはわかるんだけど。
ー今回お邪魔した、いごっそラーメンはまったく逆の姿勢でした。

 

ishi

一番人気の塩バターラーメン、800円。ネギともやしの下にはチャーシューが何枚も隠されている

江部 あれはすごいよね。ゆずもちゃんと使って、完全に意図的に、地域振興のためにやってる。人口1000人の村でもちゃんとつくっていれば客は来るし、さらに「夢がある」って話しをされていて。誰でも最初は、「こんなところでラーメン屋なんて」って、確かにそれは思うよね。

ishi

販売もしていて、ラーメンと一緒に食べる自家製の柚子胡椒。パスタや刺身、おでんや味噌汁にも合うという

ー農業、食、エネルギーに共通する大事なことは何でしょう?
江部 ジャンルは関係なく、それぞれに、自分に軸があるかどうかだけなんだよね。だから電力の話でも、逆に力強く「オレは東京電力でいい」ということでいいわけ。それも一つの選択だから。ただ、何も考えずに流されるだけなのが一番よくなくて、自分の中に軸があって、たとえそれが「安けりゃ何でもいい」ということでも、一つの考え方だから。
 「考えて選ぶ」ということさえすれば、もっと、おのずと人間は幸せになれる。そこで、何も考えてないと悪い方向に行った時に対応できないし、人のせいにしちゃう。この「人のせい」にしちゃった瞬間に、世の中はよくならなくなってしまうんです。
ー自分のお尻は自分で拭く。
江部 そう。何らかの軸だけでも、みんなが持てれば、それがいいと思うんです。

ishi

過去ENECTに登場いただいた、高知在住の梅原氏オススメのくもん屋。名店でした

 だから僕らも、誌面でいろいろな店紹介をしながら、「店くらいは自分で選ぼうよ」と。毎回1冊で50軒くらいはお店を紹介していて、読者はその中から1軒をせめて自分で選ぶことになる。一軒を選んで、すると「美味しくなかった」とか「サービスが悪かった」とか、読者からクレームがきたりもします。でも50軒の中から選んだのは一応自分の責任なわけだし、別に本に一軒しか載ってなくて、その店が「ひどいよ」というのとは違うわけで。
 人のせいにすることで、どんどん自分の中の軸がなくなっていくと感じます。その「軸」って、どうしても経験値から培われるものなんだけど、だからこそ自分で選んでみて、その結果が「よかった」、「ダメだった」ってその上で、理由を含めてそれなりにわかってくるものなわけで。
ー思考停止だけはやめましょうと。
江部 それで、dancyuから選んでダメだったら、また別のところから選べばいいんだしね。自分の中で良し悪しを決めるのは、なかなか難しいこと。でもせっかく今、世の中の選択肢が増えてきていることは間違いないわけだから。

ishi

約4年半、全55冊に渡るdancyu編集長の職務、本当にお疲れ様でした!

 

(取材:平井有太)
2016.11.3 thu.
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