【特別寄稿】宇野雄登・発電所取材記事第2弾「あつぎ市民発電所」
読みもの|10.8 Thu

市民の力でソーラーシェアリング
〜 知られざる完成までの物語 〜
 作物を育てながら、農地の上で太陽光発電も行うソーラーシェアリング。エネルギーを生み出しながら、食も生産することで、地域でエネルギーも食も自給できるため、今注目を集めています。

そのソーラーシェアリングの発電所を、市民で力を出し合って完成させた方々がいます。その主役こそが、今回インタビューをした遠藤睦子さんです。

どのようにして、市民を巻き込んでのソーラーシェアリング完成まで至ったか。そこには人知れず様々な苦労と、幾多の工夫がありました。

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ソーラーシェアリングに農業体験に来た子供たち

発電所を作るのは罪滅ぼし
 遠藤さんは退職後、「地元厚木市で発電所をつくる」という新たな挑戦を始めました。果たして、遠藤さんをそこまで突き動かしたものは何だったのでしょうか。

「脱原発を目指す」と語る遠藤さんですが、話を聞くうちに口から出てきたのは、「罪滅ぼし」という意外な言葉でした。

遠藤さんは学生時代から公害問題などへの関心が高かったため、核廃棄物が残ってしまう原子力発電についても疑問を持っていました。
大学卒業後はまったく違う進路に進んだものの、チェルノブイリ原発事故が起きたことで、より原発を使い続けることへの不安が高まりました。しかし、遠藤さんは問題意識がありつつも、何か行動を起こすことができないまま、ついに福島第一原子力発電所の事故が起きてしまいました。
原発を使い続けることの危うさを感じていたにも関わらず、問題を子どもや孫の世代に先送りにしてしまったことが、申し訳ない気持ちとして遠藤さんの中にずっとありました。そこで、退職した今、子どもや孫たちの未来のため、再生可能エネルギーを普及させる活動をしようと強く心に決めました。

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通電式の際の遠藤さんと娘さん、お孫さん

半年の遅れが余儀なくされた
 脱原発への関心が高い団体に所属していたため、周りで協力者を募り、ソーラーシェアリングの発電所の建設へ動き出した遠藤さんですが、あるトラブルによって、スケジュールが半年間も遅れることになってしまいます。
経済産業省への発電事業申請のため、建設用地が各種法令に該当していないかチェックしたところ、ここが「埋蔵文化財包蔵地」に指定されていたことがわかり、教育委員会による調査が必要になったのです。そのため、事前のスケジュールでは春の耕作前に完成予定だったのが、その年(2019年)秋の収穫後まで工事開始を待つことになりました。

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遅れてしまった半年間を、遠藤さんはより高く飛躍するための「準備期間」と捉え、仲間と一緒に農業について勉強しなおしたり、発電所の設計を見直したりしました。
ちょうどその間に、千葉県を大型台風が襲いました。施工会社の熱心な協力もあり、早急に発電所の設計を見直し、台風にも耐えうる強度にまで改良しました。

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発電所建設中の様子

遠藤さんは当時を振り返り、「あの半年間は私たちに必要な準備期間でした。あの時勉強したことは、とても今に活きています。もし、あの半年間がなくて急いで準備を進めていたら、今ほどいいものはつくれていませんでした」と話してくれました。

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建設中のソーラーシェアリング

良い仲間に恵まれた。だが、それだけではなかった
 発電所は2020年1月に完成しましたが、完成に至ることができた要因を遠藤さんは、「仲間に恵まれた」と話します。協力した仲間がそれぞれ違った強みを出し合ったことで、1人では成し得ないことができたのです。

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あつぎ市民発電所総会 2019年8月

特に不可欠だったのは、現在あつぎ市民発電所の副理事も務める落合さんとの出会いです。落合さんは主に農業面を担当されています。畑での農作業から、作物の加工や、販路についても担っています。また、発電所の建設前の申請などでは、税理士をしていた仲間がとても力になってくれたと話します。

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通電式での遠藤さん(中央)と落合さん(右)

「本当に偶然の出会いにたくさん助けられました。でも今思うと、偶然なんかじゃなくて、すべて必然だったのかもしれません」
恐らく遠藤さんの熱い想いに共感して、自然と仲間が集まってきたのでしょう。

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遠藤さんを一番近くで見てきた落合さんが話すのは、遠藤さんなくしては、絶対に完成までたどり着けなかったということです。いい人が集まっただけでは、実際は上手くいかないケースもあります。物事は、誰か引っ張っていく人がいてはじめて動き出します。それがまさに遠藤さんだったのです。

発電所の設計や農業における様々な工夫
 前述した台風にも負けない設計だけでなく、発電所の設計にはある工夫がされています。それは、遮光率を段階的に変化させているところです。

ソーラーシェアリングは、太陽光パネルで作物への光を遮りますが、その割合を遮光率としています。あつぎ市民発電所では、遮光率を32%、39%、47%、62%の4段階で分けています。そうすることで作物の生育状況を比較し、適切な遮光率を判断するための今後のデータとして活用していきます。

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配置する太陽光パネルの間隔によって、遮光率を調整している

また、「農薬や化学肥料は使わない」というこだわりを持って農業をされています。そのためには害獣除けにニンニクを撒いたり、害虫対策でマリーゴールドを植えたりしています。生ごみを雑草や落ち葉の下で発酵させて肥料として撒いたりもします。自然由来のものでも工夫次第で十分に農業ができるということを、落合さんは示してくれているのです。

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あつぎ市民発電所と落合さん

最後にソーラーシェアリングを始めてみたい人へのメッセージ
 遠藤さん、落合さんももう退職されていますが、2人とも口を合わせて「今が一番楽しい」と話してくれました。周りが徐々に変わっていくことや、農業でいろいろな工夫をしていると、作物の生育について毎日気づかされることがあると言います。
新たなことをはじめるのは決して簡単なことではありませんが、それ以上に達成感や、様々な気づきが溢れている毎日は素晴らしいのではないでしょうか。

今後は、厚木市内での新たなソーラーシェアリングの建設や、農福連系も目指すと語る遠藤さん。今後もあつぎ市民発電所の活動から目が離せません。

プロフィール写真

宇野雄登 みんな電力 事業本部 パワーイノベーション部

2020年4月新卒入社。
全国には様々な素敵な取り組みをしている発電事業者がいることを知り、その発信に力を入れる。特に、食と電気を同時に生産するソーラーシェアリングの仕組みに強く共感し、日々電力と農業について勉強中

みんな電力期待のホープ、パワーイノベーション部・宇野さんによる特別寄稿記事の第2弾(第1弾はコチラ)。
発電所にはそれぞれ想いが篭り、それぞれ背景には感情移入できるストーリーがあることを、感じていただけたら幸いです

 

(取材・文:宇野雄登、構成:平井有太)
2020.8.20 thu.
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