わたしたちの未来はミツバチがにぎっている?
目次
大都市の環境アイコンとなったミツバチ
実はミツバチのおかげで、私たちの食は成り立っていると言っても過言ではありません。
ミツバチが元気じゃないと、私たちの未来も心配になります。
自然が与えてくれたこの奇跡を、ひとりでも多くの人に知ってもらいたい。
そして都市や里山で日々奮闘する養蜂家のみなさんを応援していただきたい。
そんな願いを込めて今回の特集を贈ります。
パリ、ロンドン、ニューヨーク、東京……。いま、世界の大都市に広がり、着実に根付いたムーブメントがあります。新しいスマホ? それともファッション? いえ、実はミツバチのお話。
ビルの屋上などでミツバチを育てる都市養蜂です。
2000年代からはじまったこの活動はビル街の緑化を促し、人々の環境への意識も変えていくことにつながりました。そうして都市養蜂は瞬く間に欧米の都市に広がってゆき、ミツバチは一躍、街の人気者になりました。パリでは行政が積極的に都市養蜂を支援。市内には数百にも上る養蜂箱が企業や個人によって設置され、パリ市は採れた蜂蜜の販売まで手助けしているといいます。
日本では2006年から銀座ミツバチプロジェクトさんが東京・銀座ではじめて以来、名古屋、札幌、仙台、大阪など全国の主要都市に広がりました。その活動は単なる蜂蜜づくりを超えて、都市の緑化や食育の推進などにもつながっています。
でも、なぜ養蜂なのでしょうか。
それはミツバチがこの地球で担っている役割を知ればわかります。さあ、ミツバチのこと、養蜂のこと、そしてそこに情熱を傾ける人々の想いをたどっていきましょう。
ミツバチがいなくなると人類は4年で滅亡する
「世界からミツバチがいなくなると4年後に人類は滅亡する」。このショッキングなフレーズは、アインシュタインの言葉とも伝えられています。地球の生態系にとってミツバチがそれほど重要だということです。
ミツバチは花の蜜を集めるだけでなく、野菜や果実を含むさまざまな植物の受粉を助けています。国連環境計画(UNEP)※によれば、世界の食料の9割にあたる100種の作物のうち70種以上はハチ類が受粉を媒介しているといいます。米や麦などは生き物の助けを借りずに受粉できますが、野菜、果物、豆類、コーヒー、ナッツ類、食用油のためのゴマ、アブラナ、ヒマワリ、そして綿花でさえもポリネーター(花粉媒介者)と呼ばれる昆虫たちに依存しているのです。
その主役がミツバチです。
日本の養蜂家は、蜂蜜づくりだけでなく、受粉を目的としたミツバチの貸し出しもおこなっています。よく知られているのはイチゴやメロンのハウス栽培で、人工受粉よりも良いものができるといいます。私たちが生きるために欠かせない野菜や果物。それらを安定的に食べられるのはミツバチたちのおかげなのです。
※出典:国連環境計画(UNEP)公式サイトより
少しずつでもいい、ミツバチを増やそう!
この数十年、世界中でミツバチが減り続けています。
国連環境計画(UNEP)によると激減したのは90年代後半から。一時的に増えている地域や年もありますが、世界的にみればミツバチの減少傾向は明らかです。
原因は特定されていません。専門家によれば、農薬、大気汚染、寄生虫、環境破壊、養蜂家の減少など原因は複合的だといいます。シロクマやクジラのことは頻繁に取り上げられますが、生態系の根幹を成すミツバチの危機はほとんど話題になりません。
国連をはじめとする専門機関は、早急に対策を講じるべきと繰り返し警告していますが、世界が足並みを揃えた対策はいまだに実行されていません。
「このまま放ってはおけない、少しでもミツバチを増やそう」。
そんな危機感を持った人々が取り組んだのが世界中で沸き起こった都市養蜂だったのです。その流れは、養蜂業への新規参入や養蜂愛好家の増加につながり、日本ではここ数年ミツバチの減少に一定の歯止めがかかっています。
がんばる養蜂家さんにエールを
旅に出ると、地元産の素朴なラベルに惹かれ、天然ものの蜂蜜をつい買ってしまいます。たとえば同じレンゲの花の蜂蜜でも、採蜜された地域ならではの風味やおいしさがあります。ワインのテイスティングのように、その土地の個性を味わい、つくり手のこだわりに想いを馳せるのも蜂蜜好きの楽しみのひとつなのです。
もうひとつ、理由があります。それは地域でがんばる養蜂家さんたちへのささやかな支援です。
ミツバチたちの蜜源となる花畑や森が、農地の荒廃や都市化などで年々減少しています。それを食い止めようと耕作放棄地などに花を植え、荒れた山を整えている養蜂家さんたちがいます。その活動は養蜂業という仕事の枠を超え、地域の環境保全に一定の役割を果たしているのです。
旅先で出会う素朴な蜂蜜。
そこにはきっと、おいしさと一緒に、ミツバチへの情熱も、すこやかな自然への想いも詰まっています。
次回TADORiでは、都市養蜂のパイオニアである「銀座ミツバチプロジェクト」の田中淳夫氏に養蜂から見たSDGsについてお話をうかがいます。
※写真はイメージです。