【前編】今や電気もモノな時代|鈴木修司(BEAMS JAPANディレクター)
「え、電気ってお店で売買できるの?」という質問は至極自然なものだろう。その発端には、BEAMS JAPANでディレクターをつとめる鈴木修司氏が打ち合わせの場で発した、「今や電気もモノだと思うんです」という一言があった。その場に居合わせたみんな電力の誰も、それを考えたことも、よもや実現させようなどとは思っていなかった頃の話だ。
BEAMS JAPANは2018年8月より、みんな電力通じて、福島県南相馬市にある野馬土発電所の太陽光発電による電力を導入してきた。
そもそもは2016年4月のオープン以来、全国各地が誇る名産品、郷土文化を新鮮な切り口で掘り下げ、若い世代を含め幅広くその魅力を伝えてきたBEAMS JAPAN。同年同月は奇しくも、電力自由化が実現した月でもある。つまり期せずして、そのオープンから自由化後の電力と並走してきたBEAMS JAPANが、全国の名産品を扱ってきた先で、産地のある電気の店頭販売を実現させることは必然だったのかもしれない。
全国を自分の足で巡り、魅力的なコト、ヒト、モノを探し続ける鈴木さんと太田友梨さん
監修に箭内道彦氏、イラストに寄藤文平氏という布陣のふくしまものまっぷ。ここに「ふくしまの電気」が早く並んで欲しい
BEAMSは小売業です。もちろんオリジナル商品をつくったりもしていますが、かたや社会はネットもお店も日本全国、地方も含めて飽和状態と言える状況です。その時、社長は「今のままのビジネスを続けていくのは難しいよ」という話を、社内で常々していました。
だからBEAMS JAPANは立ち上げに際して、日本中のお客さまだったり、これまで助けてくれたメーカーさまや関係者への恩返し的な事業であると同時に、今まで蓄えた「知恵とかセンス、ノウハウを具体化する」いうことが大前提としてあったんです。そしてその中で、例えば「ふくしまものまっぷ」という企画は福島支援の意味合いを込めて、利益から離れたところで始まりました。
あれも継続しながら結構な評価をいただいて、今しっかりと2年目に入っています。「福島の魅力を改めて語ろう」という時、あれはまさに「まっぷ」というだけに、一番の元になったのは大きな地図でした。
とはいえ「ふくしまものまっぷ」と言いながら、そこにはヒトがいてコトもあり、その中からBEAMSがお客さまに期待されているのはお買い物なので、そこでまずは「モノを切り出そう」という、そういうスピンオフ的な経緯が最初にあったんです。
飯坂温泉名物のラジウム玉子も、BEAMS JAPANの手にかかればおシャレなお土産に
つまり大きく辿れば、BEAMS JAPANを立ち上げる時に、僕はそもそも「モノ」ということを頭から外していました。それは、これから売り物になるのは「モノだけじゃないぞ」と。
もちろん世代、その人にもよりますが、現代は基本的にモノを持ちたがらない。今やパソコンさえも会社のを使ったり図書館に行ったり、車にはカーシェアリングみたいなサービスもあります。一人一台とか一人一つみたいな、モノを持つこと自体が厳しい、「モノじゃないものでお客さまは満足する」となった時、何かそこで「従来のかたちではないモノを売っていかなきゃいけないな」ということは、僕自身が「JAPANをやれ」と言われる前から感じてはいました。
だから、「これからの世の中はモノじゃないんだ」と。それは、「モノ」という定義そのものの部分が変わってきているんだろうなと思います。
そこがしっかり維持できているというのは、例えば牛乳石鹸のオリジナル石鹸を一緒につくったり、他に銭湯グッズを売り出す時も、「一緒に銭湯文化を発信しましょう」ということで東京中の銭湯を巻き込んで展開したんです。それはただ「買い物しましょう」ということでなく、そうやって文化そのものに寄り添って売り出すことで、実際の数字にも反映されてくと。
だって、お買い物をしてくれるということは、「関心がある」ということの一番の証拠じゃないですか。だからそこは手応えアリですよね。
あれは、そうやっていろいろなところが活性化されて、その結果として、それまで銭湯に行かなかった人たちも銭湯に行くようになるということを見据えての仕掛けでした。
だから無理矢理話を繋げるわけじゃないですが、エネルギーについてはそんな僕でさえ、みんな電力さんとの出会いがあって改めてエネルギーのことを考えたくらいなわけです。だから今回の企画で、それが数人か数十人かもわかりません。でも、これがきっかけになって「あ、電気って選べるんだ」、「エネルギーの産地なんて考えてなかった」みたいな人が増えて、それが他のところの違う企画に繋がっていってくれたらと思います。
そうしてどんどん電気に対しての感覚が社会の中で変わっていく、「そのきっかけになれたらすごいな」と思っています(笑)。
まさに史上初の電気の店頭販売の「きっかけ」となった鈴木さんが根幹に持つ想い、いかがでしょうか?
来週月曜26日の後編に続きます。
鈴木修司
1976年生まれ。三重県松阪市出身、鎌倉在住。1998年にビームス入社。メンズ重衣料からメンズカジュアルウェア、そして“fennica”の前身である“BEAMS MODERN LIVING”の店舗スタッフ、その後に“fennica”のMD、 “B:MING LIFE STORE”のバイヤーを担当、現在は“BEAMS JAPAN”のバイヤーに従事する。