【第2回】AMITA|持続可能社会の実現をミッションとする企業
読みもの|4.1 Mon

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上のメイン写真は、生ごみをバイオガスと液体肥料に変えるバイオガス施設「南三陸BIO」。体温の通う経験を通じての熊野氏のお話には、揺るぎない説得力宿る

  みんな電力に電気を切り替え、社員にも切り替えを勧めてくれているアミタホールディングス株式会社・熊野英介代表ロングインタビュー、全3回の第2回。
 「この世には無駄なモノはない」という発想から、現代の工業社会は「無駄をつくる増幅装置だ」でもあるということに辿り着き、その上に構成される社会そのものを、誰もが等しく扱われるべきなのにそうならない「障害をつくり出す障害社会だ」と捉えられている、熊野氏。
 それを「誰一人取り残さない社会」、つまり「20世紀型の社会に変える」目的において、選挙における「投票」よりも、ビジネスにおける企業の「購買」が実質的な力を持つという、「スペンド・シフト」に話が及んだところから、はじまった。
ーそれはつまり「スペンド・シフト」ですね。

2018年 南三陸町で実施した資源回収実験の拠点「MEGURU STATION」

南三陸町で実施した資源回収実験の拠点「MEGURU STATION」。2018年

熊野 それをエネルギーの世界でみんな電力さんがやりはじめたわけです。それを知った社員から「こんなことができるんじゃないか」という話が出て、それはもう、速攻でOKでした。
 現代は、環境の世界も含めて、情報が脳をコントロールし、心を支配している時代です。人間には「共感したい」、「わかりあいたい」、「皆で集いたい」、「助け合いたい」とった本能に近い良心があるはずです。しかし残念ながら今は、そういうものを濃厚に持っている人と、反対に非常に理性的になっている人とに分かれているなと思います。
 私たち団塊の世代は、それこそウッドストックのような世界的なイベントもあって「生産性より人間性」という方向に大きく振れた時代も経験しています。同時代にはダニエル・ベルシューマッハーといった、環境の世界に影響を与える学者たちもウワーッと出てきました。日本でも、『複合汚染』(有吉佐和子著)みたいな本がベストセラーになりはしましたが、結局は生産効率や経済効果を重視する層に完膚なきまでに負けてしまいました。
ー日本社会にはあと一歩響かなかった。

2018年 南三陸町で実施した資源回収実験の拠点「MEGURU STATION」分別の様子

以下3枚の写真は、南三陸町で実施した資源回収実験の拠点「MEGURU STATION」での「分別の様子」。2018年

熊野 その原因は、私の今の結論として、構造的に人間の脳は「関係性が見える範囲でしか約束が守れないんだ」と考えています。それは、ロビン・ダンバーという文化人類学の教授が考えた「ダンバー定数」というものがあって、それにおいては「150人くらいが限界だ」と言うんです。
 つまり、人間の脳の認識範囲を超えた人工的社会が構成されて、私たちは平気で公害を起こしたりポイ捨てするようになってしまったということです。東京なんて最たるモノで、朝の電車で「人身事故で遅れます」となると、それはほぼほぼ自殺なのにも関わらず「チェッ、またか」という世界なわけです。
ー痛みを知る心のキャパを超えてしまっている。

2018年 南三陸町で実施した資源回収実験の拠点「MEGURU STATION」分別の様子2

熊野 そういった「関係性が切れた」状況は、量の問題だと思っています。脳の認識を超えてしまったんです。
 もう一度私たちが人間性を取り戻し、「誰一人取り残さない社会」をつくるには、自立分散ネットワークしかないと思います。これは人類史上、実現されたことがないものです。でも、現代はインターネットやブロックチェーンの発達で、高度なネットワーク化が実現できるようになりました。私たちはその実験をもう始めています。
 私たちは、3.11の被災地である宮城県南三陸町という町にボランティアとして入り「もう、下水・焼却処理もやめましょう」ということで、震災の翌年、津波を逃れた高台のお宅85軒に生ごみ分別の実証実験への協力をお願いしました。そしてその約2週間後には、その地域からはほとんど異物混入が見られないきれいな生ごみが出されるようになりました。
 生ごみなどの有機性廃棄物は、メタン菌によって分解されることにより、メタンガスを発生させることができます。この分別を始めた数ヶ月後には、生ごみからエネルギーとなるガスを得ることができました。
 もう少し詳しく説明すると、町には現在約13,000人の住人がいらっしゃいます。そこでバケツを約370個配って、約40人に対して一つの割り振りで、バケツで生ごみ分別をしたもらったら異物混入率が1~2%だったというわけです。他地域の事例だと、分別教育を行っても平均5%は入ると言われていますので、驚異的な数字です。
ー大きな自然災害に遭った場所だからこそ、高い意識も生まれたということでしょうか?

2018年 南三陸町で実施した資源回収実験の拠点「MEGURU STATION」分別の様子3

熊野 タイミングにも大きな意味があったと思います。ああいった地震や津波はあったからこそ、近代システムについて考え直すことができた。
 今は次のステップとして、放っておくとただただ収縮してしまう地方の地域に対して「濃縮」、つまり「人や自然の関係性を深めることを目指しましょう」と言っています。
 一般的に、地域の環境コストと医療コストを比べると、環境コストの方が高いことが多くあります。それは、人間よりもごみにお金をかけているということで、しかもそのコストのほとんどはごみを集めるコストです。であるならば、集めるよりも持ってきてもらおうと。そして持ってきてくれた方には感謝ポイントがつくと。そしてそのポイントは、地域の環境保全にシフトできるという、そんな実験を2018年に実施しました。
 実験後、参加者に対してアンケートを行いました。すると、わざわざごみを回収拠点まで持って行く手間がかかるのに、結果として満足度が高いんです。その理由に繋がっていると考えられる結果なのですが、例えば、この実験への参加を通して「人と会話する機会が増えた」という方が半分以上いらっしゃいました。
 また、「今回の実験を通して、もっと地域の人と関わりたいと思うようになりましたか?」という質問に対しては、7割以上の方が「非常にそう思う」、または「そう思う」と回答されました。
ーやられていることすべてが、「誰も一人にしない」に繋がっていくように思えます。

宮城県南三陸町のバイオマス産業都市構想の概要図 バイオガス施設を軸とした資源循環に取組む

3.11後に策定された「南三陸町バイオマス産業都市構想」のイメージ(提供:南三陸町)

熊野 私は今後の10年、2030年頃というのが大きな潮目になると思っています。その理由は、社会変化の一番確実な予測である人口動態です。それ以降、今までのルール、すなわち常識がまったく変わっていくのではないかと思います。
 日本ではこれから一気に高齢化が顕在化して、2023年には50歳未満と50歳以上の人口比率が一緒になると言われています。それ以降は、50歳以上の方がマーケットの中心になります。中国も2050年には人口の約3分の1が60歳以上になると言われています。
 そういった変化が何をもたらすかというと、生産年齢人口が減るわけですから、強いものが資源やエネルギーを得られるという時代に突入するわけです。人類史上初めて、地球の制約条件と人間の拡張性がぶつかる。その時、人間はたぶん、高度情報管理社会をつくると思います。2030年には世界の水需要に対して水資源が40%不足するとも言われています。農作物を含めた資源は配給制になるでしょう。それが情報管理社会です。
 このような状況において、私たちはどんな社会を目指せばよいのでしょうか。私は「定常型社会」だと考えています。
 環境の世界では1972年頃、ハーマン・デイリーという人が「持続可能な3原則」というものを提唱しました。
 それは①「再生可能資源」、つまり水産物の繁殖や農作物の消費速度は、その資源の再生速度を超えてはならない。②「再生不可能な資源」、つまり地下資源はいずれなくなるので、自然エネルギーで代替できるようにしなければならない。③「汚染物質」の排出速度は、環境が汚染物質を無害化できる速度を超えてはならない。というものです。
 彼は、約40年前に「この3原則を守れば資源は持続できる」、「行き過ぎた成長はやめて、定常型経済にしよう」ということを言っていました。 当時私は学生でしたが、その定常型経済で発展した事例というのは、おそらく日本しかないと考えています。
 1750年頃には2,900万~3,100万人程度と言われており、江戸時代中期以降は3000万人前後で停滞しています。
 江戸時代中期(1700年代)以降は人口が3300万人前後で停滞しているのですが、GDPは上昇し続けたと言われています。この時、何が起きたのかと言うと、小ロット多品種の産業が発展したということなんです。単品目の大量生産をしていないから、売れ残りもない。日本にはそういう社会をつくって楽しんだ経験があります。知恵を用いて、豊かさの価値観を「量から質へ」転換させる。
ーエネルギーの問題はどうなるのでしょう。

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熊野  AIやロボティックスで言うと、私らのようなボンクラ人間でも思考に使うのは1時間に20ワット程度ですが、人工頭脳は25万ワット必要です。「高度情報化社会」というものは、「大量エネルギー社会」でもあります。それはCPUとかGPUといった集積回路の塊なので、そこで省エネなものが開発されない限り、「エネルギーを握るものが情報を握る世界」になるんです。
 となれば、産業と民生を分けた時、民生の地域の中にエネルギーの機能を持たせると。つまり、みんな電力さんの電気を買えば買うほど地域の山河は護られる。使うほどに自然が豊かになる。しかもその収益のいくらかで地域ファンドをつくって、人間関係もできて、それを「地域活性に役立ててください」と。
 それはつまり、利用者が出資者に変わるということです。
 市場と製造と生活といった単位をつなげる接着剤的な役割を、エネルギーは担えるはずなんです。そしてそうなれば楽しい社会ができるはずで(笑)、私はそういった道を模索しているんです。

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このままでは「エネルギーを握るものが情報を握る世界」が来てしまうと、大きな課題を私たちにくださった熊野氏。
決して遠くはない、すぐそこに迫る近い未来の話、最終回は4/8(月)の公開です。

 

(取材:平井有太)
2018.11.15 thu.
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