
【後編】水がつくる、コーヒーの未来。25周年のSlowCoffeeをタドる
2026.03.10
“オーガニック”の先駆者として25年、コーヒーを通して価値観を伝え続けてきたSlowCoffee。 前編 では、その歩みと、3.11をきっかけに郡上へと移り住むまでの背景を聞いた。 後編では、郡上での暮らしの中で見えてきた「水」という存在、そして米づくりを通して実践している“グリーンインフラ”の話へ。 コーヒーのその先にある、次の25年のビジョンとは。 SlowCoffee 小澤陽祐さんへのインタビュー後編です。
今回紹介したアイテム

フェアトレードによる、生産者の持続的な暮らしを支援
ー郡上で生活してみて、住み心地など変化はありますか? 小澤 変化というか、郡上との対比で東京はほどよいサイズをもう超えていると改めて思いました。満員電車とか、異常な世界だと思うんですよ。さらに助長されているから、はみ出る人がいっぱいいると思うんです。そういう人たちに「別にこぼれ落ちても大丈夫だよ」って早く都会から「ドロップアウト」した身から言いたいです。 ーそういえば、5年前に宣言された「オーガニックシンジケート」の仲間たちは、今はどうされていますか。

小澤 みんなそれぞれ活躍してますね。それぞれのローカルな場所で、生き生きとしている感じがします。ずっとオーガニックのことをやっているからこそ、そもそもみんな健康だということもあると思います。 アンナ シンジケートのメンバーには、寺田本家さんもいらっしゃいましたよね。寺田本家さんは、みんな電力も使ってくださっているんですが、オーガニックにこだわり、つくり手や背景を大切にしている姿勢と、私たちが行っている「誰がどこでつくった電気かが分かる、顔の見える電気を届ける」という取り組みは、とても近い価値観だと感じています。いわば、私たちの電気は“オーガニックの電気版”のような意識というか。 小澤 そう思います。 みんな価値観が共通していて、それがスパイスだったりお酒、日本酒だったり、ソーセージや電気だったりするっていうだけですよね

SlowCoffee代表・小澤さん(左)と、TADORiライター・平井(右)
ーとはいえ、オーガニック界の濃いメンバーがこれだけ揃うのは、“権化”とも言える小澤さんがいて、小澤さんの声がけだからこそ集まれるという説得力があるからですよね。 小澤 嬉しいですよね。郡上にもみんな来れたら絶対楽しんでもらえると思うんですが、やっぱり東京からそれなりに距離があって、なかなか気軽に来れない。 アンナ 郡上で言うと、最近の私には”水”というテーマがホットトピックで、「水を飲む」ことが電気を使うことのように当たり前になり過ぎちゃってるけれど、もし、簡単に手に入れられない状況になったら、「自分たちは“水”をどう捉えるんだろう?」と。そこで、文化的に歴史的に宗教的に「水ってどういう存在だったんだろう?」ということを考えています。 郡上は水がすごく綺麗だから、こっちに移り住んでそのあたりの意識の変化はありましたか? 小澤 根源的なものですよね。 水、空気みたいな。たしか水は一週間飲まないと死ぬ?それこそ、空気はもっと短いですよね。 コーヒーもそこから派生していると思うんだけど、僕は2011年まで、コーヒーをオーガニックで売っていい気になってたんです。言い方はよくないかもしれませんが。でも、3.11でコーヒーの大本の「水が飲めません」となり、「コーヒーどころじゃない」「水飲めなきゃ死んじゃう」となったんです。 身体の2/3は水だと考えると、本当に根源的なもので、郡上はそれが自然のまま飲めるとか、これだけすごい水源から水がいっぱい出てきてるのを見ると、「めちゃくちゃ豊かだよね」と思います。

郡上の水汲み場が分かる「郡上八幡 水くみMAP」
ー郡上はそんなに水が湧き出ている? 小澤 もう、ドバドバ出てきています。 リョータのおばあちゃん家がこの場所の少し先にあって、そこに5ヶ所ぐらい水汲み場があるんです。そこは本当に、どこもコンコンと水が流れ続けていて、それってやっぱり「すごいな」と。 ーそれを見ると、否応なく内面からワクワクする感じでしょうか? 小澤 ありがたいなと思って。 リョータ 僕は、普通過ぎて何も思ってなかったですが、小澤さんに言われて「あぁ、たしかに」と。 ーみんな地方に行く中で、郡上の話になるとひと言目に「水がきれいだよね」と出てくるじゃないですか。それが普通という贅沢さ。

1985年に環境省が選定した「日本名水百選」第一号として知られる、郡上のシンボル・宗祇水
リョータ 大学生から新社会人にかけて名古屋に住んでいたのですが、水はあまり飲めるものではなかったですね(笑)。中高生の頃までは、ミネラルウォーターって何で売ってるのか、よくわかんなかったんですけど、都会に行ったら、「都会の人は水道水飲まないのか」と気づいて。 ー全然飲まないです。 小澤 まずいからね。僕、松戸で普通に浄水器を付けずに水を飲んでたんですよ。はじめて郡上に来るまでは水道水を飲んでいて、美味しいと思っていて。郡上に来て松戸に帰省すると、水道水を飲んだ時にマジでカルキ臭いし、吹き出すくらいでした。 ブェーッて「何これ、こんなの飲んでたの?」みたいな。逆に、「これだけ薬とか入れないと飲めない水って何?」と思いました。 アンナ 考えると、実際の水源を見たことない気がします。 小澤 この辺には結構あります(笑)。

水汲み場に寄贈された水舟〈みずぶね〉
ーお話を聞いていると、これだけステキな郡上に骨をうずめる方向性ですね。 小澤 そうですね。生まれも育ちも松戸で、都会はもちろん好きなんですけど、「そっちにいなくてもいいかな」という感覚はありますね。 ー思ったことに忠実に、まず自分で実践して外に出てしまう。「ここはこんなに豊かなんだよ」という生活そのものを見せるのが、一番強い説得力です。 小澤 「日本の田舎っていいんじゃない?」ということを、自分の言葉で言えるのはいいですね。それに郡上には、排他的じゃない下地がある。しっかり田舎の部分も残っているけど、基本は「よう来とくれた」というスタンスで、それがすごく嬉しいんです。 ーなるほど。そろそろ、まだ最後に小澤さんらしいパンチラインがあるんじゃないかな、と(笑)。 小澤 あとは「グリーンインフラ」をやっています。まだ仕組みづくりにまでは至ってないんですけど、郡上で米をつくること自体が、まさにグリーンインフラだと思っていて。これまで3年間、田んぼを借りて米づくりをして、3回収穫してきました。そんなに難しくないというか、やってやれないことはないなと。 アンナ その米づくりは、収穫の時にみんなを呼んだりもするんですか? 小澤 初年度は、田植えや収穫も含めて、体験としてみんなを呼んでやったんです。米をつくるだけじゃなくて、米づくりを通して、その土地の文化や営みを一緒に体感してもらえたらいいなと思って。 ただ、初年度は稲架(はざかけ)まで自分でやったんですが、これが想像以上に大変だったので次の年からは刈り取りは地元の方に機械でお願いしています。 もう地元でもあまりやらなくなっているから、はざが朽ちていて、8割くらいまで掛けたところで「ミシミシ」って音がし始めて、「まさか」と思ったけど「ボキーン」とはざが折れてやり直し。結局、全部やり直しを2回しました。 2回目も、また8割くらいまでいったところで「ミシミシ」「まさか……」「ベキベキーッ」って。あれはマジで心が折れました。でも踏ん張って、3回目でやりきったんですよ。もう、いいかな(笑)。

アンナ それはしんどい、、 小澤 自分一人だと、できることの限界はわかったので、米づくりを通して、田園風景を守ることとかそういうのを仕組みにしていきたいというのはあります。でもとにかく、お米は美味いです。やっぱりそれも水かなと。 それに、ウチは水出しコーヒーを売りにしているんですけど、「美味しい」って言ってもらえます。 ホットコーヒーもそうなんですが、これは最近気づいて、「今さらかよ」って話なんですけど。 例えば、ジュースってフルーツでできるじゃないですか?果実の木は水を吸って育ってますけど、それに対して、お茶とかコーヒーって、その成分が抽出されているだけで、結局は水じゃないですか。 だから、多くの人に「美味しい」って言ってもらえるのは、やっぱり本当に水のおかげだなと。だからそれも、郡上の水のおかげなんだなと。

ー日本酒も絶対美味しいと思います。 小澤 なぜか甘いんですよ。辛さを測ると、結構辛口なんですが、それを僕らが呑んでも、どう考えても呑みやすくて甘く感じるという。 アンナ ご自身でも松戸が拠点の頃と味は変わったと思いますか? 小澤 水出しコーヒーなんかは、夏場は毎日朝飲むんですが、我ながら「美味えなぁ」って思います。 ーそれがデフォルトになっちゃうと、それこそ本当に他には行けなくなっちゃいますね。 小澤 そうかもしれません。だから、ここで飲んでもらえたら、絶対「美味しい!」と言ってもらえる自信があります。この景色も含めて。


ーではもう、「とにかく一度ここに来い」という話ですね。 小澤 ちょっと遠いけど、名古屋圏の人なら一時間で来れます。 リョータ 名古屋の人、めっちゃ多いですね。若い人も増えました。一時期ハッシュタグ「自然界隈」で、TikTokなんかでよく流れてました。 小澤 面白いですよ。リョータみたいなのがみんなニコリともしないで、すげえ大自然をバックに目線も合わさず撮ってる写真とか(笑)。 アンナ 見てみたいです(笑) ところで、slowcoffeeさんは今年で25周年を迎えましたが、次の30年に向けて「こうなったらいいな」と、描いているビジョンはありますか。 小澤 ここでやりつつ今まだテスト中ですが、今年から天然氷を扱いはじめています。それも温暖化で溶けて、氷自体なくなっていくんじゃないかというのはあるんですが、「天然水で、天然氷を」というのもやりはじめました。 さっきの2050年問題もそうなんですが、コーヒーで培ってきた「伝えたい価値観」を、コーヒー以外のものにも乗せて届けていきたいなと。

ーさっきは「愛」と仰っていましたが、その「伝えたい価値観」は何ですか? 小澤 何でしょう、、言語化すると「反骨」なのかな。 そもそも僕はそんな「愛」とか高尚な人間ではなくて、やっぱり世の中の不条理とか、そういうものに抗う反骨ですかね。 アンナ カウンターカルチャーからの。 小澤 カウンターカルチャーですね。25年前と比べて、「今の日本がよくなってますか?」と言われたら、全然よくなってないと思うので。 ー今は特に全体的に何が何やらですよね。 小澤 そう考えると、自分にも子どもたちがいて、その次に孫が生まれてきた時に、もっとおかしい天候、気候になっていると思うんですよね。それを考えると、少しでもいい未来を残していく。 僕の先生である(辻)信一さんも、郡上を気に入って、お住まいの戸塚から、下手すると年一ぐらいで来てくれます。あの人も孫ができて、ご自分はもう80歳近くになられていて。残りの時間がみえてきたときに、お孫さんたちのことをやっぱりすごく話してました。 郡上に移住してから10年経って、ありがたいところに移住させてもらって、本当に魅力的な町だと思います。日本に沢山ある“いい町”の、間違いなくそのうちの一つだなと。ここに住まわせてもらって、楽しく暮らしているからには、やっぱりリョータたちの世代、アンナちゃんたちの世代にも魅力的な、楽しい郡上であり続けて欲しい。 だからこそ、こういうお店で働いてもらいながら、勘所みたいなものを掴んでもらって・・僕が老害になる前に。 アンナ 絶対にならないと思います(笑)。

25周年を迎えた「SlowCoffee」は、変化していくこれからを見据えながら、郡上という土地とともに歩み続けている。 その一杯のコーヒーには、この土地の恵みと、25年分の問い、そして次の未来への意志がそっと注がれている。
今回紹介したアイテム

フェアトレードによる、生産者の持続的な暮らしを支援

フェアトレードによる、生産者の安定した暮らしを支援

フェアトレードによる、コーヒー生産者の安定した暮らしを支援
TADORiST

エネルギーのポータルサイト「ENECT」編集長。1975年東京生、School of Visual Arts卒。96〜01年NY在住、2012〜15年福島市在住。家事と生活の現場から見えるSDGs実践家。あらゆる生命を軸に社会を促す「BIOCRACY(ビオクラシー)」提唱。著書に『虚人と巨人』(辰巳出版)など https://www.facebook.com/dojo.screening Twitter @soilscreening
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