【第2回】「BIOCRACY(ビオクラシー)」展にあったもの
読みもの|2.11 Sat

  昨年4月、日本で初めて実現した電力自由化を経て、現在実際に電力を切り替えたのは人口の5%に満たない現実がある。
 みんな電力の力を借り、電力の可能性を駆使した作品が話題を集めた「ビオクラシー」展ではあったが、「すでに僕らが手にしている自由、権利を十分に活用する」ということが裏テーマにあったということを、アーティストの平井は語る。
 ビオクラシー展のキュレーションを務めたChim↑Pomリーダー・卯城氏に、平井ともう一人、鼎談に参加したのは歌舞伎町の元カリスマホストであり事業家の手塚マキ氏。「初期衝動」についての話から、第2回は始まる。

 

鼎談はビオクラシー展会場の2階、歌舞伎町でのChim↑Pom展にあった作品に囲まれながら

卯城 ソーシャルスケープってことでいったら、せいちゃんがTOCACOKANのスタジオを始めた時「面白いな」って思ったわけ。「この人何始めたんだ?」って。
 だって元カリスマホストで、色んなお店を経営して、けど常にやってることはゴミ拾いとか、ブロードキャストのチャンネル、、かと思ったら、展覧会を会社でやったりするでしょう?空き瓶をめっちゃ集めたりして。
 だから、面白い実践とか行為を、アートのエッセンスを抽出しながら行っていくというのが、今後の人類にとって興味深い展開になっていくと思ってて。
平井 そういうのはもともとあった素養なのか、やっぱりエリイちゃんとかChim↑Pomと時間を過ごす中でそうなっていったのか?
手塚 もちろん影響はなくはないけど、ずっと商売をしてきて、商売は「儲かること」が正義で、それが金額で、さらには月々それが出てくる。この「月々」で家賃とか給料、支払いを区切っていくのが不思議なんだけど、そのリズムで売り上げ云々ということに、実はあまり魅力を持っていなかったかもしれない。そういうレースに乗っちゃってたからやらざるをえなかったけど、もっと自分がワクワクする面白いことができるということが、商売をする理由だった気がする。
平井 では、おのずと今の流れになっていったという。
手塚 かもしれない。だから、もっと儲けることができても、「やりたいことの幅が広がるだろうな」と思うし。
卯城 そういう活動をしかも、会社としてやったりとかするから面白い。
平井 重要な姿勢。
卯城 チームラボとかも、会社としてアート制作に取り組んでいますよね。以前のチームラボには「会社だけど、変なことやってんな」というハテナとワクワク感が両方あったな。それがある意味成功した今は、もっとはっきり何をやってるのかがわかるようになった。けどTOCACOKANやってたり、ゴミ拾いとかは、今も謎めいている(笑)
平井 何事も生まれたばかりの、名称もない、よくわからない時が一番面白くて、逆に、名前が付いて定義付けされた瞬間からどんどん魅力が削がれていくということはあって。だから「美味しいトコどり」っていうのは、それが生まれたてのホヤホヤで、みんなが「何なの」って集まってきて、本人たちすらわかってないけど、何か直感的なものに突き動かされている状態で。
卯城 同時にアートとの距離感も絶妙で、Chim↑Pomの歌舞伎町の展覧会をオーガナイズしたり、いろいろ仕掛けて、活動のリンクのさせ方が面白いですよね。
平井 だからこの辺で、せいちゃんが「実は全部アートでした」とか言い出すと、みんな「え?」となって、もちろんそこも展開のさせ方次第なんだけど。だからやっぱり「なんか、変わってるね?」と、まわりからは実態がわからないまま、漠然と思われてる状況そのものを、僕は「初期衝動」って呼んでいて。それはとても素晴らしいもので、聞いてるとせいちゃんのスタンスはそこにすごく近い。
手塚 自分の場合は一つ一つ理由は付けてやってるつもりなんだけど、繋げてみると「何やってるんだろう?」みたいになる(笑)

手塚マキ氏

卯城 会社的には、まったくわからないだろうね。従業員の方に聞くと、「また会長がなんかやりだした」って(笑)けどそれを楽しんでいる感じがある。
平井 でも、今すでにチームラボはいるわけで、今度はホストのアート集団が現れたら、それは世界的にも相当なインパクトを持つと思うな。
一同 (笑)
手塚 アートかどうかはわからないけど、「いろんなことができる会社でありたい」というのはあるかもしれない。チームラボみたいに、「こういうところでお金を稼いで、こういう風に活動して」というきれいな絵を描く気はなくて。
 もっと、さっき有太マンが言ったみたいな、ストーリーにパッケージングされちゃうような方向性は決めず、先に人が増えて、仲間が増えて、お金も増えて生まれてくるものが楽しみ、みたいな、、だから「夢は?」とか、「会社の何年後は?」とか聞かれるけど、いつも「まったくない」って言うし(笑)
卯城 TOCACOCANでは、有太マンさんがやってきた、インタビュワーの役割もしてたじゃん?歌舞伎町のハードコアな人を連れてきて、ずっと話を掘り下げて聞いて。だからちょっと、面白ジャーナリストみたいな側面も、あるといえば、ある。
平井 好奇心が旺盛なのと、歌舞伎町への愛着心の両方な気がするけど。
手塚 中途半端な好奇心は旺盛かもしれない。何かを突きつけて「何だろう?」って思わせるつもりはないけど、いろんなことを横読みするのが好きというか。
卯城 そう言って、歌舞伎町に関しては一番詳しいし。
平井 横読みって、広く浅くってなりがちなライター業が一番やることだから、結局一緒かも。
卯城 作品でいくと、今回のネーミングライツとネオンとか、どう捉えた?

世界初の電力ネーミングライツは、千葉県は木更津にある発電所を運営するエコロジアさんの協力で実現した

手塚 まず、商売的に考えちゃったかな。どう、みんな電力なり、新しい電力をつくってる人なりがお金を稼いでいるのか。
平井 アディダスがネーミングライツを買ったことが、どうブランドに寄与するのか。
手塚 そもそも、最初はどのライツ(権利)なのかわからなかったし。
卯城 展覧会の電力って言われても、ちょっとポカンとするみたいな(笑)
手塚 みんなも、電気がどういう仕組みでここまできているのかわからないから、この辺だったら「東京電力が当たり前にやる」みたいな感じじゃない?それをちゃんと考えるきっかけになること自体がいいと思ったし、だって調べたもんな、その後。
卯城 電力について?
手塚 そう。今、社会には「つくっていい」、「売っていい」という権利が発生していると。
平井 誰でも、経産省に申請して免許をもらえるようになった。
手塚 でも送電は東電だから。
卯城 ここは僕もそもそもの話なんだけど(笑)、みんな電力がやってるのは、流通産業みたいなことですか?
平井 みんな電力がうたっているのは「顔の見える電力」で、それは他にやっている会社のいない強みであって、ある意味「マッチングをする」という。こちらにはこんな想い、こんな方法で発電している人がいて、かたやこちらに、こういう電気を欲しがっている人がいる、という。
卯城 司会者みたいな役割で、マッチングさせて、送電は東電にお願いしている?
平井 送電は東電しかできない。でも発電は、個人でも企業、自治体でも、それはもう多様な人たちをとり揃えていますと。
卯城 電力自由化になったら、イメージとしてずっとあったのが、自然エネルギーに替えたら値段は上がるんだろうなと思ってたの。原発は安い!ってさんざん刷り込まれてきたし。だけど今回安くなった。それが意外で。
平井 今劇的に技術革新を続けている分野なことと、周辺の法律を含む状況が変わり続けている業界なので、なんとも言えない側面もあります。でも大きいのは、FITという制度。それはソーラーでつくられた電力を、国が再エネを普及させる施策の一環で高めに買い取ってくれるんだけど、実際に普及するに従って、その値段も徐々に落ちていく。だから、そこにもせめぎ合いがあるというか。
手塚 モー娘みたいな子たちが、電気をつくってたらみんな買うかもしれない、、
卯城 確かに(笑)
平井 まさに。モー娘なりAKBなりの娘が「家で発電してるんです」と言ったら、「それ、100万でも買う!」っていうコアなファンがいるかもしれない。そういうことになると、電力の可能性を示すかなり面白いケースになるんだけど、そこまでキャラがたってる発電所はまだ出てきていない(笑)
卯城 いつか、そのアイドル発電所でできた電力を大ファンの人が割高でも買って、その電気で生活する状況ができる。
手塚 確認すると、今回の展示では、アディダスが実際に発電してる木更津の発電所のネーミングライツを買って、それを繋いだのがみんな電力だよね?
平井 そう。今回は「技術サポート by みんな電力」という。
手塚 今の話でいくと、実際に発電してる家が、ひょっとしたらこじはるの家だったのが(笑)、そこを特別に「アディダス電力」って名前にしたってことでしょう。そこも、なかなか、結構わかってなかった。

会場ではネオン作品の脇で、電力がどこから届けられているかを確認できる、ライブ中継動画も見ることができた

©平井有太 Courtesy of the artist and garter gallery, Tokyo. Photo by Yuki Maeda

平井 最初に「電力を作品にしよう」って考えた時、もし「この、Chim↑Pomが仕掛けるカッティングエッジな場所に電力を供給したい」という人がいたら、、
卯城 こじはるが?(笑)
平井 いや、もちろんこじはるがChim↑Pomファンならそれでもいいんだけど(笑)、それよりも、例えば熱心なコレクターの方がいれば。
手塚 これって、さっきしてた「アートが純粋なピースから、社会におけるアクションに変わってきてる」という話にすごく似てない?
卯城 似てる、似てる。
手塚 もともとネーミングライツって、野球場とか物理的な場所にあった概念で、それが電力にまで付くようになるって、すごいよね。
平井 だから、たぶん、世界初のケースじゃないかと。業界の人もみんな聞いたことないって。
卯城 この、非物理的な”物質がない”感じって、コンセプチュアルアートっぽい(笑)
平井 「ネーミングライツは作品になりうる」という案をくれたのは卯城くん。僕は最初から「電力を替えたい」ということは言っていて、でも、それをどう作品にできるか案がなかった。
卯城 だから最初は、コレクターに発電と電力供給をしてもらって、「その権利をコレクターに売る」という案だった。あとは有太マンさんが最初から、「アートをつくっても、売買に繋がらなかったら意味がない」ということを言っていて、「だったら実質的に面白い売り方がありそうだな」と思って。
 普通に作品があってコレクターが「うーん」ってなるよりも、もっと実質的に売り買いする意味を生み出せないかと。

卯城竜太氏

手塚 たぶん、一番「あれが面白いな」って考えたのは、「ビジネスがそこに参加してるな」って思ったのよ。商売も考えられるし、ビジネスを抜いたものにここがなってないというか。
平井 アート作品が、ギャラリーの外のビジネスと一致していた。
手塚 そうそう。そういうこともここに入ってるのが、面白いと思った。
卯城 「電力のネーミングライツ」って考えると、可能性を感じるよね。色んな美術館のネーミングライツをスポンサードとして実現させることと、作品として収蔵されていくことが重なりそうだし、それによって各美術館が自然エネルギーに変わっていくという、1つで3つのヤバい側面がある。
平井 電力の自由化ということが起きて、解放された市場の規模って14兆円です。それってこの、人口減で、停滞して、経済が今より上がるわけがない日本社会で、あり得ないことで。
卯城 じゃあ、なんでみんなやらないんですか?だって、5%とかしか参加してないんでしょう。
手塚 でも、ネガティブなニュースしかないでしょう。最近のニュースも、新電力にも廃炉費用を上乗せみたいな。
卯城 あと、変えたところで「何が変わったかの実感がない」というのがあるよね。
手塚 それから、じゃあ自分が実際に、例えば田中さん?の電力に替えた時に「止まっちゃうんじゃないかな?」という気がする。止まらないの?
平井 止まらない。そこは送配電をやってる東電なり、今までの電力会社が責任としてバックアップ電源というのを持ってなきゃいけなくて、「停電させちゃダメですよ」と。
手塚・卯城 なるほどー。
手塚 夜逃げとかしちゃわないのかなって(笑)
卯城 なんにしても、物理的に、東電の線しかないんだもんね。
平井 ただ、東電もかつてない、電力をつくる部門、売る部門、送配電する部門の3つに分割されていく方向に向かっている状況ではあります。
 それに、ラディカルな人たちはすでに「オフグリッドだ」ということで、動き出してる。
卯城 そうか、電線ナシで暮らすという。
平井 とはいえ、蓄電池を用意して誰もがうまくいくわけじゃなくて、いろいろな条件でたくさん発電できる人と足りない人がいるわけで、余った電気を無駄にするのはもったいないし、足りない人も困ってしまう。だから、現実的にはある程度繋げておいて、お互いに補い合うことができるのは普通に必要なんじゃないか、とか。
 実は、今回の展示には裏テーマがあって、その言葉はCA4LAさんとキャップにもさせていただいて。それは英語で、”BE AWARE OF EXISTING FREEDOM”としたんだけど、福島の郷土史家の方が言った「自由はあるんだけど、それを認識してない」という言葉。

福島県いわき市で100年以上続く老舗材木屋さんの廃材でつくられた額に、再生された廃バッテリーの電力で灯された光で、言葉が映し出される

©平井有太 Courtesy of the artist and garter gallery, Tokyo. Photo by Yuki Maeda

 僕らは何事にも文句ばっかり、それこそ「東電ふざけてる」、「政府がふざけてる」って安直に言いがち。でもよくよく考えると、できることで与えられてる自由も実は結構あって。だから、言いたい文句もたくさんあるし全然言うけど、まずは目の前の、今すでにできることをやっておこうと。
 だって、電力自由化なんていうかつてない機会が目の前で実現して、それを国民の8割、9割が活用してたら、今すでに東電はなくなってるかもしれない。もちろん、もしかしたらみんなその権利を使った上で総意で、東電を社会として選択するのかもしれない。
 地下の作品にしても、明らかにカンナビスに含まれているCBDという成分の効能をおしているんだけど、カンナビスを大麻と言っちゃうといろいろ事件もあったけど、CBDは今もすでに合法ですと。楽天やアマゾンで買えますと。今、普通に法で認められていて、どうやらすごい効果があるらしいことが欧米で立証されていて、それを使ったら、どうしようもなく放置されているだけの福島の汚染土壌が再生されるかもしれない。誤解されがちな、日本古来の麻文化も再生できる。そういう意味で、別室にある廃バッテリーも含めて、「すべては再生可能である」ことを証明するし、実現させるために、まずは「目の前にある自由をフル活用しましょう」と。

地下の動画作品

 さっきせいちゃんが言った、「自分も参加できる」というのは重要で。人間は自分で気付いて選択すると、強制されてやるよりもずっと、想いを込めてやるわけです。だから、その部分を促進させるアートの機能って、卯城くんの言ってることに直結すると思うんだけど。

ー 最終回に続く ー

 

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jose

卯城竜太(Chim↑Pom)/Ryuta Ushiro

Chim↑Pom 卯城竜太・林靖高・エリイ・岡田将孝・稲岡求・水野俊紀が、2005年に東京で結成したアーティスト集団。時代のリアルに反射神経で反応し、現代社会に全力で介入した強い社会的メッセージを持つ作品を次々と発表。映像作品を中心に、インスタレーション、パフォーマンスなど、メディアを自在に横断しながら表現し、世界中の展覧会に参加、さまざまなプロジェクトを展開する。近年は自作の発表だけでなく、同時代のさまざまな表現者たちにも目を向け、2015年アーティストランスペース「Garter」を高円寺にオープンし、キュレーション活動も行う。また、東京電力福島第一原発事故による帰還困難区域内で、封鎖が解除されるまで「観に行くことができない」国際展「Don’t Follow the Wind」の発案とたちあげを行い、作家としても参加、同展は2015年3月11日にスタートした。
著作に『Chim↑Pomチンポム作品集』(河出書房新社、2010年)、『なぜ広島の空をピカッとさせてはいけないのか』(阿部謙一との共編著、無人島プロダクション、2009年)、『芸術実行犯』(朝日出版社、 2012年)、『SUPER RAT』(パルコ、2012年)、『エリイはいつも気持ち悪い エリイ写真集 produced by Chim↑Pom』(朝日出版社、 2014年)、『Don’t Follow the Wind: 展覧会公式カタログ2015』(河出書房新社、2015年)がある。

jose

手塚マキ/Maki Tezuka

経営者/ソムリエ 中央大学理工学部中退後、歌舞伎町のホストクラブで働き始める。入店から一年後、同店のナンバーワンとなる。2003年に独立後、現在は歌舞伎町を中心にホストクラブ、BAR、飲食店、美容、ワインスクールと幅広い分野で活躍。
ホストのボランティア団体「夜鳥の界」を中心となって立ち上げ、「僕たちにできること」をテーマにホスト独自の社会的貢献を目指し、定期的に街頭清掃活動を行う。2015年2月には様々なカルチャーを紹介しているPASS THE BATON表参道店で、ホストクラブの文化を6000本の空き瓶を用いたアート作品で表現し、ホストクラブを無料体験ができるエキシビジョンを開催。2015年12月歌舞伎町商店街振興組合のビル建て替え計画に伴い、解体までの期間限定で「歌舞伎町の為になる事を」の街からの依頼で24時間ネット配信スタジオTOCACOCANを開設。

jose

平井有太/Yuta Hirai

http://chimpom.jp/artistrunspace/

 

(取材:ENECT編集部)
2016.12.15 thu.
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