【後編】嬉々!! CREATIVE studio COOCAと北澤桃子さん
読みもの|2.28 Mon

 コロナ禍2年連続して開催されるオリンピック、そして世界を動かす潮流SDGsに後押しされるかたちで、障害者の方がつくるアートへの関心が高まってきた。2003年から福祉の世界で従事し、障害の有る無しよりも「どれだけ心に響くか」という点を見つめながら、多くの作品を丁寧に世に送り出してこられた北澤桃子さん。

 TADORiを運営するUPDATERは、昨年東京下町で開催された市民芸術祭「アートパラ深川2021」への協賛を皮切りに、つい先日には埼玉県川口から多くのアーティストを輩出する工房集・高谷こずえさんのアートワークを起用し、史上初の「タドれるチョコレート」をつくったり、北澤さんの領域に興味を抱き、距離を縮めつつある。

 ここは、神奈川県は平塚駅前商店街のGALLERY COOCA(クーカ)& CAFE。

 長年ギャラリーの施設長を務めてこられた北澤さんに、ご活動から見える苦労と希望、そして喜びについて伺った。

北澤 年に2回、全員参加の展覧会があって、そこでは全員商品化を目指して、ほぼ100人分の商品を出しています。そこで作品の発表する機会のバランスを取り、ご本人やご家族の希望を伺いながら徐々に商品化するかたちをとっています。一概に、長くいる人から順に商品化していくというわけではなく、企業からのオファーは先方に選ばれてしまうものなので、そこは「個性の力」と割り切っています。

 「福祉」という言葉のイメージで「みんな平等にサポートする」という要素はもちろんありつつ、一方で、本当に作品が突出している、才能がある人が売れていくことも必要と考えています。だからオリジナルの原画については本人に還元し、商品の販売はまた別で全体に還元する、2パターンの還元方法で対応しています。

ー外的な、一般の社会からの反応や接し方は、変わってきましたか?

北澤 保護者の方々が顕著だと思うんですが、私が2003年頃に入った頃、展覧会でも「名前をそんなに出したくない」という親御さんがいらっしゃいました。「落書きに名前付けて発表するの?それはいいよ」という感覚だったかと思います。あとは今、私たちもYoutubeを利用していますが、そういうことも「ありえない」というような、活動を表に出すことが受け入れがたい方もいるという感触がありました。

 だから当初は、写真をブログに載せるだけでも確認をとる作業が必要でしたが、徐々に、むしろ「ウチの子も載せて」という意見が寄せられたり、つくった商品が浸透して、たとえすごい大ヒットではなくとも何千個かは売れて、人の手に渡っていくわけです。それが20年も続くと、作品に出会う人々の数が増えていきます。その中で認知度も向上して、保護者の方々も少しずつ、やっている取り組みに確信を持ちはじめていただけたのかなと思います。

 社会的な側面としては、差別解消法の条例がすすんだり、バリアフリーの問題も以前と比べるとすごく解消されつつあると思います。もちろんまだまだな部分も多いですが、例えば駅の構内に「目の不自由な方をガイドしよう」というポスターが貼ってあるのが普通になったり、駅員さんが車椅子の方をサポートしている光景も増えました。

 そういうことと共に、徐々に文化的にも「社会が豊かになってきたのかな」と思います。それが自然と保護者の方にも伝わっていて、「作品を商品化して認知を広める」という意義も浸透していった気がします。

ーそういった大きな流れは、一般社会にどのような影響を与えるでしょう?

北澤 理解がすすんで、国の政策も、ところどころでも上手くいっていると思います。障害のある方々がアクセスの難しい場所にある施設だけではなく、街で一緒に生活できるようにしようという流れがありますが、その中でも重度の方というのはいらっしゃって、どうしても、ご家族も含めて一緒に生活することが難しいケースについて、変わらない課題は今もあります。いつも一定数の重度の方々、例えば行動障害などを抱えている方々にどこまで寄り添ってどう暮らせるか、まだまだ私たちがやらなければ考えなければいけないことが多いと感じます。

 社会の成熟と共に、障害を持つ方たちが暮らしやすくなりつつありますが、とはいえ解決されない大きな課題が、そのままあるのも事実です。そこは、歯がゆくもあります。

ー目指されている理想があるとして、その時にアートの機能を、どう感じていますか?

北澤 私たちの活動において、アートは一つのツールです。それは社会と関わるためだったり、自分の感情を表出するために採用している側面があって、もちろんその中に光る才能があるので、発表することも続けています。

 障害のある人が自分の得意なことを突き詰める過程で、そこに可能性を感じる方々から注目が集まるようになってきました。アーティストが活躍することはもちろん嬉しいことですが、さらに社会の中で生きづらい人や、それは自分自身も含めて、なにかにつまずいたり、落ち込んだ時も、キキのアーティストの作品が見る方に「幸せ」「楽しい」「驚き、ワクワク」といったプラスの気持ちを届けてくれたらと願っています。

 あとは、障害の有る無しに関わらず「誰でも、その人の中には光る何かがある」ということを、取り組みを通じて届けたいと思っています。どんなに重い障害の方でも、その人だからこその光るものがあるということを、この仕事についてみんなとの出会いから感じ続けてきました。それは障害のある方だけに限らず、キキのアーティストや作品との出会った方に、ぜひ「自分にも、あなたにも光る何かがある」ということを考えたり、信じたりしてもらえたら嬉しいです。

ー何より、北澤さんのブレない姿勢が一番の証明になっている気がします。

北澤 やっぱりメンバー(アーティスト)の皆さんには魅力があったし、私自身が全然もともと強い人間ではなくて、人は誰でも周期的に悩むタイミングがくると思うんですが、でもなぜか、その時々に強く「励まされる」できごとが起きてきました。日々のみんなやスタジオから、他者を後押しするような、エネルギーを感じるんです。

メンバーとアートを通じて関わっていると、「みんなのためにもっと頑張ろう」という気持ちが自然に湧いてくる。そういう見えないエネルギーが何かはわかりませんが、メンバーが感情をストレートに表現してくれることの効果なのかもしれません。このスタジオにいれば、誰でもそういう気持ちになれる気がします。

 例えば一般的な企業に勤めていて、日々誰かに絡まれたり、触られる、ということはほぼないと思います。「絡む」というのは、普通に働いていると、下手したら一日に2、3人としか喋らないこともあると思いますが、ここだと絶対にたくさんの人に絡まれて、みんなが関わってくれます。笑顔で、毎日10人ぐらいが名前を呼んでくれて、それが一番嬉しいことなのかもしれません。「私のことを呼んでくれる人が、いっぱいいる」みたいな、自己肯定感もあがるというか(笑)。

ー確かにスタジオクーカさんに行くと活気があって、自分も楽しい気持ちになれる気がします。

北澤 もう一つスタジオの機能、アート活動の機能として言えるとしたら、「ありのままで過ごせる場所」ということでしょうか。それはメンバーは何をしてもいい、寝たかったら寝てもいい自由がある中で、一人一人が自分にまっすぐに「今、やりたいことをやっている」ということなのかもしれません。

北澤桃子さんのご活躍は、コチラをチェック!↓↓
https://www.kikicreative.jp/

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記事を作った人たち

タドリスト
平井有太
エネルギーのポータルサイト「ENECT」編集長。1975年東京生、School of Visual Arts卒。96〜01年NY在住、2012〜15年福島市在住。家事と生活の現場から見えるSDGs実践家。あらゆる生命を軸に社会を促す「BIOCRACY(ビオクラシー)」提唱。著書に『虚人と巨人』(辰巳出版)など