ファッションからSDGs・多様性の本質を追求。ファッション・フロンティア・プログラムをタドる!
読みもの|12.6 Mon

11月30日、東京都港区の国立新美術館にて、”環境や社会課題に立ち向かう開拓者精神を持つファッションデザイナー”を育成する「ファッション・フロンティア・プログラム(以下FFP)」の授賞式が開催された。約100名の応募があり、厳正な審査を通過した8名のファイナリストから、優秀賞2名、最優秀賞1名が選ばれた。

目次

FFPとは

プログラム主旨

FFPは、経験・年齢などの制限を設けず、「ファッションデザイナーとして新たな一歩を踏み出したい人」を募集し、多くの環境負荷をもたらすとされるファッション業界を牽引する人材を発掘・育成することを目的としたプログラムである。

このプログラムの主催は、エシカル・サステナブルファッションにおける、教育や情報発信を行う一般社団法人ユニステップスで、FFP実行委員会が共催、環境省が後援をしている。

審査

審査員には、プログラム発起人・デザイナーの中里唯馬氏、VOGUE JAPAN編集長の渡辺三津子氏、建築家の妹島和世氏、国立環境研究所・生物多様性領域室長の五箇公一氏、慶應義塾大学医学部教授の宮田裕章氏など、名だたる顔ぶれを迎えている。

審査基準は、”ソーシャルレスポンシビリティ(社会的責任)”と”クリエイティビティ(創造性)”であり、社会的責任には、「多様性・包摂への視点」や、「自然環境への配慮」、「労働環境への配慮」など、創造性には、「唯一無二であるか」「タイムレスなデザインか」などの項目が設けられている。

経緯

7月から募集を開始し、8月にファイナリスト8名が選出される。8月から11月までに4ヶ月間は、多様な専門家からの講義を受け、作品制作における支援を受けることができる。

受賞者には、翌年度のインキュベーションの参加・受賞者発表のイベントにて作品を発表することができる。受賞者を含むファイナリストの8名は、任意で専門家や企業とのコラボレーションの機会や継続的な学びの場があり、アイディアを発展させる場としてコミュニティ化が予定されるラボへの参加が可能だ。

ファッションの写真

ファイナリストによるプレゼンテーション

ここでは、ファイナリスト8名の中から、5名を紹介。

ファッションを通じて学校生活をより良くする制服」 本田琉碧 (Ryua Honda) 

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”制服は「公平」だけど、「個性」を殺す。”本田氏による「誰でも着れる制服」は、個性を失わず、性別や体型にとらわれない制服こそが「正義」だと定義づける。

本田氏は、イギリスへ留学し、自分をマイノリティーとして認識した経験から「個性」の重要性を再認識した。また、日本の女子高生の象徴ともされる「セーラー服」のモチーフは、18世紀フランスで男性用の軍服であることをヒントに、個性が反映され、性別に捉われない制服作成に至った。

そのヒントが機能として体現され、ジッパーでズボンにもスカートにもなり、ギャザーであらゆる体型にも対応が可能だ。カラフルなリサイクルナイロンは、カバンやマフラーとしても使用できる。

「Whoever Smiles Must Be Happy」 岩井彩映子 (Saeko Iwai)

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「多様性」が意味するものとは。その問いに対する岩井氏の答えを象徴するものが、「社会で自己防衛の中で葛藤する服」だ。

昨今「多様性」という言葉は、人々の個性やアイデンティティを表現することが多々紐付けられているが、「意見を言わない」、「愛想笑いをする」、「周囲に合わせる」ということを心地よく思う人は、「多様性」に含まれていないのではないかという葛藤を表した作品だ。

作品には、廃棄金属を使用し、感情を表す単語が表記されたカプセルに閉じ込められた赤いたねは、「言葉として滲み出るよな感情は確かにそこに存在するが、『あえて表現しない』」ことを象徴している。

「DUST」井口貴仁(Takahito Iguchi)

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ニット製造の仕事をしている井口氏が、日々目にする捨てられた糸くず。通常ゴミとして廃棄されてしまうその糸くずたちは、「様々な種類や色が混ざり合い、宇宙や自然の創造物のようだ」と井口氏は語る。

1日100回、3ヶ月で1万回、自分の手で糸くずをはた結びで結び、井口氏の宇宙や自然の創造物を表現した。

このプログラムを経て、「ファッションは、自由に。サステナブルに偏りすぎず、無難な服を今後は制作していきたい」と語り、今後も他の参加者とは異なる切り口からのファッションを見せてくれそうだ。

「循環」中野未咲希 (Misaki Nakano)

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「新しいものを生み出すことに、新しいものを使わない」。公園や道路に落ちている葉や木をメインに、使われなくなった素材を使用した斬新な作品。

服は汚れたり劣化すると、捨てられてしまうが、最初から汚れや劣化した植物を使い、「廃れる過程の美しさ」や、「完璧でない価値観」の提案を表現している。

10種類の草木の落ち葉や枝、綿素材、でんぷんのりなど、自然由来・生分解性がある素材のみを使用することで、土に還すことを可能にした。

循環する、新しいものを生み出すことに、新しいものを使わないものづくりで、「見た人を触発する服」を追求する。

「MUSUBU」和田由里子 (Yuriko Wada)

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グラフィックやタイポグラフィを学んだ和田氏が生み出した、「大量生産・大量消費に向き合う」作品。

会期を終え役割を失ったチラシなどを張り合わせ、積層、結晶化し、生産過程で出た余剰糸や紐を組み合わせた。

異業種の視点から、ファッション業界にも共通する「大量生産・大量消費」の課題と限られた資源をどう使っていくかが問われる現代の課題に向き合い、「越境者たちの灯りとなれたら」と話す和田氏ならではの作品だ。

授賞式

授賞式では、優秀賞2名、最優秀賞1名が発表された。

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優秀賞は、井口氏の「DUST」と和田氏の「MUSUBU」だ。どちらも通常なら廃棄されてしまう素材を、実際に着用できるビジュアルと、素材の循環が評価された。

最優秀賞は、本田氏の「ファッションを通じて学校生活をより良くする制服」 だ。本田氏の作品は、「誰でも着れる」を、性別、体型、個性などあらゆる面から追求し、それらが機能として体現している点が特に評価された。

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表彰したVOGUE JAPAN編集長の渡辺三津子氏と、最優秀賞を授賞した本田氏

まとめ

「ダイバーシティ&インクルージョン」や「持続可能な社会」、「SDGs」など、現代私たちを取り巻く社会課題やキーワードに、真正面から向き合い、その本質を問いかける作品たち。作品を通して、独自の想いを発信し、社会が進む方向性を提言する彼らのように、ただ受動的に方針に呑まれるがまま従うのではなく、自分なりに向き合い、選択し、発信することが、今まさに求められていることなのではないだろうか。

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記事を作った人たち

タドリスト
Saemi
多様な価値観を尊重する社会づくりに貢献することを目標に活動中