【第2回】老舗銭湯「電気湯」のサステナビリティ
読みもの|1.25 Mon

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開店前、お客さんを待つ脱衣所にて

  よもや、そんな名の銭湯が現存するとは。そしてその「電気湯」という、ある意味みんでんとの親和性しかないような銭湯が、下町・墨田区は京島で100年超の歴史を持つ老舗銭湯だとは。さらには、27歳の若さで電気湯を継いだ大久保勝仁さんは、銭湯界で初めてサステナブル経営を標榜するSDGsの申し子だったとは!
 素直な驚きと、出会えたことの喜びを感じつつ、「働き方の協同組合」であるワーカーズコープ(ここもみんでんのお客さま)にも席を置く大久保さんの在り方に終始、必然性と説得力を見い出し続けたインタビュー。
 2月2日に控えたみんでんへの切り替え日に向け、“THINK GLOBALLY, ACT LOCALLY”を地で行く大久保さんのお話には、希望と可能性が溢れていました。お楽しみください。
ーさすが電気湯、掘り下げがいのある歴史ですね(笑)。

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大久保 あとは家業なので、銭湯の歴史と共に一族の歴史を知れることが面白いです。今も厳密にはおばあちゃんが一応社長で、僕が役員やりつつ現場も見ている感じなので。
ー例えば「銭湯を継ぐなんて嫌だ」みたいな、後継者問題的なことが10代であったりはしなかったんですか?
大久保 いえ、もともとは僕自身にも「そのまま継ぐ」という選択肢がなかったんです。
 だから、「やる」と言った時は親もビックリしていました。それはそもそもおばあちゃんとウチの家族に少し距離があって、そんなに親しくなかったという背景もあります。
 父は歯医者で、僕は建築学科に行ったのでそのまま建築関係に進むと思われていたんですが、だんだんと都市の政策に関わるようになって、都市計画みたいなことを学んでいると「銭湯はとても重要だ」ということに気づくわけです。
 それで国連で仕事をしたり、国際会議にたくさん出るようになって、歩んだ道は”ローカル”から”ナショナル”を経由して”インターナショナル”という、ある意味わかりやすい流れだったんです。国際的な現場に行くと、ゴリゴリに「政策提言します!」「ロビーイングもします!」みたいな人たちがたくさんいて、それはそれで楽しくもありました。

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オープン前から、一番湯に入るために並んでるお客さんとも、顔見知り

 でも、だんだん「足元固めないと」というのと「『ローカル=地域』の方に行きたい」という気持ちが大きくなって、それで仕事は仕事で続けつつ、今の勤め先のワーカーズコープの理事長である古村さんと、SDGs界隈で出会った同じくワーカーズコープの中野さんに誘っていただいたんです。それは日本語で労協連(労働者協同組合連合会)という組織なんですが、そのタイミングでおばあちゃんが「そろそろ電気湯をやめる」って言い出しまして。
 その時、まさに僕から「いや、銭湯なくしちゃダメでしょう」「街から銭湯なくせない」みたいことになって、そういった中で継ぐことになりました。でもそれから1年くらいはウジウジ、メンバー集めとかはしつつ、大きくは動けませんでした。
ーそこでいう「メンバー」とは?

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電気湯の公式マスコットキャラクターの「ビリーくん」。Twitterだとファンがいたりするも、認知度はまだ今後の課題

大久保 バイトの子たちです。おばあちゃんの時代は男性の従業員の方が一人だけいて、よくよく聞いてみたら「土曜しか休みがない」という状況で月給20万円でした。
 それでは僕の感覚では病んでしまうというか、最初は僕も銭湯は消費する側として好きで、運営する側としては、、「どうしたものかな?」みたいな(笑)。ただ、「銭湯をなくしたくない」「やる人がいない」「自分がやるしかない」という状況で、かといって僕一人でやる根性もないわけです。
 それで身の回りに声かけて、メンバーを集めて、今はある意味「銭湯サークル」でここを運営しているようなイメージです。ほとんどみんな学生で、近所の子たちで集まって夜中ここで運営会議したり、めっちゃ楽しいです。
 もう1年もやっているので、最近自分にも店主としての自覚ができはじめて、その中で取り組んだ一つがみんな電力さんへの切り替えだったんです。
 「持続可能な銭湯を目指そう」ということで、自分自身もワーカーズコープで働きつつ、電気湯をやりつつ、今は何とか人並みの収入がある状況です。ワーカーズコープは常勤で7月から働いています。
ー嬉しいことにワーカーズさんもみんな電力なので、ここにエネルギーを通じた新たな繋がりが生まれているように見えます。なぜ働き先は、ワーカーズだったんでしょうか?

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大久保 それは、「誘われたから」です(笑)。
 でも、僕自身もちょうど興味があった、マーク・フィッシャーの『資本主義リアリズム』という本があるんです。また、これはさらに別の方の言葉で「資本主義の終わりより、世界の終わりを想像する方がたやすい」というものがあります。
 まず今って、例えばSFでも何でも、「資本主義の終焉」みたいなところからクリエイティビティが出てきてる流れがあります。それは現実には、今でもすべてが資本主義に回収されていっているという背景があります。
 そしてそこに「賃労働リアリズム」がある、、つまり、そこには僕たちが当たり前に思っている「就活しなきゃいけない」とか、どうしても雇われて、でも組織のことは役員会や株主が意思決定して、彼らにしたって自分たち自身の仕事ではない、「労働集約的な仕事をします」というスタンスがあります。
 でも、僕はもっと、そこよりも「地域で生きる人たち」をつくりたかった。または「そういう街であって欲しい」と、考えていました。
 この墨田区京島には個人商店も多いし、集まってくる若者たちも何でも自分たちでやっちゃうの人たちです。僕は、そこにある働き方について知りたいし、地域で働く方々の最前線を見てみたかったんです。その時にちょうどワーカーズに声がけいただいて、「ここはピッタリだな」と思いました。
協同組合、しかもその中でも「働き方を司る組織=ワーカーズ」がしっかり機能すると、今後の社会に大きな力を発揮するような気がします。

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大久保 それから、実は電気湯の住所は末尾が「10-10」で「千十(せんとお)」なんです。いつからか10月10日は「銭湯の日」とされていて、しかも僕の誕生日も10月10月です。
 そういうことで、東京銭湯の日野さんからは「銭湯の申し子」って言われていて、ずっと「おまえがやるしかねえじゃん!」という風に言ってくれています。
ーすごい話です。その申し子に、ぜひ銭湯界のサステナブル経営を牽引してもらって、業界再エネ化の風を吹かせていただきたいです。

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男湯に描かれた、もう日本に2人しかいないと言われる銭湯絵師・中島盛夫さんによる、赤富士

大久保 本当にそうなんです。めっちゃ、やりたいです。
 以前、みんでんさんがBEAMSさんで電気を売るようなことを見ていて面白いと思ってて、あれはぜひウチでやりたいです。だって、「電気湯に来て電気を買って帰る」みたいな、言葉にするとわけわからないんですが(笑)、しかもそれが再エネの助けになるというのは、まさに僕がやりたかったことでもあります。

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 電気って、目には見えないものです。だから数字上でだけ使って、知らぬ間に引き落とされているみたいな、そこを物理的に手に取れるようにして、「これはこういう電気なんです」という風に説明できるってことが素晴らしい。最初聞いた時、「天才だ」と思いました(笑)。これが電気湯にあったら、僕は無茶苦茶売り込みます。
 電力会社の変更って難儀というか、どうしても「ハードルが高い」と思われちゃうわけです。それを無理して崩そうとするより、一度まず、かたちあるものとして買ってもらう。もちろん、その時の「いいことをしている」気持ちを消費しちゃうのもよくないかもしれないんですが、でもそれによって「電気代はどこどこに届いて、電気はどこどこから来ていて」ということを理解できると。
 そうなりさえすれば、ウチから波状的に広げていけるなと思います。
 というか、ぜひ、やらせてください(笑)。

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10月10日「銭湯の日」生まれで、運命的に銭湯界の未来を背負うために生まれてきた大久保さん。最終回は2/1(月)です

 

(取材:平井有太)
2020.12.07 mon.
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