【最終回】みんな電力社員・梶山喜規|エネルギーと自由、平等、博愛?
読みもの|2.5 Wed

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  業界中枢の仕事を通じて、個人的に大事にされてきた「自由」と、業界として重んじる「平等」が、もしかしたら対立概念かもしれないと笑う梶山さん。
 「電気」は理系で、数字と結果でコントロールされているかたい世界と思いきや、突き詰めるとすごく哲学的で、時に情に左右される人間的な側面が見えてくる不思議な感覚。
 30年来山を登ってきた梶山さんがみんな電力に来て、社内では自然発生的に登山部が発足しました。さて、私たちは「自由」と「平等」が融合するところまで、「電気」と「登山」の組み合わせから辿り着くことができるのでしょうか。
 電気の理想像を追いかけていくと、最後に見えてくるのは、みんでんさえもなくなっていくかもしれない社会のあり方。
 「顔の見える電力」の真骨頂かもしれない社員インタビュー第一弾。もしほんの少しでも「みんな電力では、こんな人が働いているんだ」と感じることあれば、ご家族や、SNSでの投稿も、ぜひお願いいたします。

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—電力自由化は、今まであった「平等」の精神で固められた仕組みを、刷新できる機会である。
梶山 今、個々人が自由に電源を選べるようになりました。
 これまでも自分の家に発電機を置けばある程度使えるとなったんですが、なかなか都会だと家の屋根にパネルを乗せる以上のことはできないし、それさえも賃貸の家だと難しい側面があります。
 それが、それこそみんな電力だからこそできる特性ですが、誰々の「ここの電気を買いたい」という気持ちが実現できるのは、それこそ僕にとってはいい方向だと思っています。
—ただ現実として、この、本当に社会の仕組みを刷新できるかもしれない自由を手に入れたのに、社会はあまりに無関心という側面もあります。
梶山 考え方として「そうは思っていない」人も結構多いんです。「おせっかいだ」と感じる人もいるというか。

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都内で軽い山登りのつもりが、途中鎖場もあり、結果3万歩、約20キロという、なかなか手応えある行程でした

—制度や仕組みをつくる次に出てくるのが、ユーザーとのコミュニケーションというハードルである。
梶山 みんな電力をもってしても、個人はもちろん、法人営業も実際自分も関わっている中で、「話はわかる。けれどもー、、」みたいな対応も多くて、行動まで伴うのはやはり少数派です。
 とはいえ、他に志が似た組織も、それは例えば生協さんとか、結構あります。でも生協さんは需要家を外部に募れない、対象が自分たちの組合員向けのみだったりします。そこはみんでんとは少し違ってくるんですが、とはいえそういった芽は徐々に増えてきています。
 結局大事なのは、「そういうことをしたい」と思った時に、それができる仕組みにしておくことなんです。
 それは例えば送配電線の利用であったりとか、不合理な負担をしなくてもそういうことができる、なんだかんだ言って一番最後の「選ぶ」という行為は個々人の自由です。そしてその代わり、「『やりたい』と思った人ができる」ということが大事と思っています。
 「選択肢がない」とか、「選択肢があってもやろうとするとお金が膨大にかかる」という、そういった「おかしいんじゃん?」ということをなくしていきたいと思っています。

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—その観点では、まだまだやることがある。
梶山 あります。
 今、小売電気事業者の数は600とかになってしまったわけです。自由化前には10社しかなくて、それが2016年以降増えてきて、もともと大手の電力会社にいた立場からすると、「あまりに責任感のない事業者」というのも実際にいます。ルールを守ってないというか、ある意味お客さんを騙してとっていくみたいな会社があったり、最低限の「ここを守りましょう」という系統利用のルールを守らない組織もありました。
 だから今は割と経産省も、地元電力会社も、大手の新電力にしても「もっとルールを厳しくすべきだ」という人たちがいます。さらには、どちらかというと、再エネじゃない従来型の火力みたいな電源が市場から退出しちゃうことがないように、救済策的なことが議論されています。
 台風までがある意味で利用されていて、最近は「系統のレジリエンス」という言葉が流行っています。それはこの1年くらいの間、だんだん「系統を強靭化するために」、「安定供給と安定性が大事だ」という意見が強くなっているんです。
 それらが大事なのはもちろん間違いありません。でもそこで、「大事だからやらなければいけないこと」以上の何かをやっているのだとすると、それは「自由を奪う」ことになっていきます。
 だから、そこのところでなかなか、みんでんにしたってまだ弱小だし、中小の新電力はそこの議論についていけていないんです。「難しい」し「よくわからない」し、そもそも「そんな余裕ない」し、そのためだけに人を一人二人割くなんていうことは、小さい会社にはできません。
 でも、そこのルールって実は非常に重要です。

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 「ルール」とは、これをゲームという言い方をするとよくないかもしれませんが、業界で事業をやっていく上での基本的なことではあるわけです。それを「つくる過程を全然ウォッチしていない」ということでは、その業界で生き残れません。
 「託送」とは、系統を利用する時のルールもあるんですが、あれは単なるルールです。みんな電力がやっている、「30分ごとに電気の調達量と需要量を合わせないといけない」ということは、物理の法則でそれが系統の安定のために必要なわけではないんです。
 正直、そんなことしなくてもいい(笑)。それは「系統の周波数が乱れる」といったような、本当に守らないことと比べたら、単なる「業界で事業やる時はこのルールを守れよ」というルールなんです。
 さらに今はそれをベースに、じゃあ「ズレた時のお金をいくらにするか」みたいな議論が行われているんですが、そもそも「それって何のためなんだっけ?」という。結局それは、突き詰めれば、いい加減にしかそのルールを守ってない人たちを市場から退出させるためのルールなんです。
—ごく少数の心無い人たち、余力がない人たち対策で、そもそも必要ないことを心ある事業者にやらせなければいけない。
梶山 資料とかを見ても、ただ「30分ごとの同時同量は守らないといけない!」とだけ書いてあります。でも、そこはたぶん新電力の人たちも誤解している部分です。みんながそれを、「系統の安定化のために必要」と思っているんですが、そうではありません。あくまでそれは、系統全体で調整すべき問題なんです。
—送配電分離の必要性を各所で耳にしますが、どうなるのが理想的なんでしょう?

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2人いるみんな電力初の新入社員のうちの一人・上山さんと、梶山さん

梶山 送配電は恐らくまず間違いなく、送電部門の広域化は進むと思います。会社がくっつくのか、所有者は違うけれども部門同士の提携になるか、そのレベル感はわかりません。系統が独立している沖縄は別として、大きく分けると周波数50ヘルツの東日本と60ヘルツの西日本の2つに分かれる中で、9つの送電エリアそれぞれで設備形成の計画を作成し、日々の運用をやる必然性はないんです。
 とはいえ配電まで含めてすべてをくっつけるのがいいかどうかは、また別の議論です。配電とは本当に、家の前の電柱からの引き込み線までを含みます。
 もっと大きい鉄塔レベルの送電と配電は、海外だと分かれているケースがほとんどなんです。むしろ日本みたいに同じ会社がやっているのが珍しく、送電はなるべく広いエリアでやった方がいいわけです。
 かたや配電はそれぞれに拠点があり、その拠点というのはよりお客さんに近いところで、もっと今より細分化される可能性がある。それは、都道府県単位とか、そういうことです。
—配電部分が、分散化されていく。
梶山 その中で配電の一部は、今の東電じゃない人が持つみたいなことが起きてくるかなと思います。
 それこそ自治体が、配電もやりつつ、水道もやりつつみたいな、そういった公益事業をやる会社をたてるのがドイツで言うところの「シュタットベルケ」だったりします。シュタットベルケは配電網を自分で持っていて、送電は別の会社がやっています。
 東京でも、六本木ヒルズには独立した配電網を持っています。あそこは下に発電所があります。もともとは街があって普通に家があったエリアで、東電の電柱も送電線も全部あったのを全部撤去して、地下に発電所をつくって、独自の配電網を地中に張わせて持っています。
 それが普段は東電と繋がっていますが、緊急時には遮断もできます。だから、あそこは東日本震災の時も計画停電になっていません。震災時もあそこの電気は問題なくて、それどころか余剰分をエリア外に供給していました。

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—ある意味で理想のかたちが実現している?
梶山 僕の中で理想100%というゴールは、見つけてもないし、設定もしていません。でも方向性として、2016年の電力の全面自由化を、僕は20年前から待ち望んできました。それによって個々人が電気を、少なくとも自分の好きな会社から買えるようになったというのは大きなことでした。
 あとは、「どういう発電所を建てるかという主導権を、消費者の方が得る」ということに関しては、そこはまだ道半ばです。そこで実現したいのは、それこそ「コーポレートPPA」と呼ばれるものです。
 それは、必ずしも自分の家の屋根の上に発電所をつくるのではなくて、離れた土地にあっても「マイ発電所」みたいなことで、そこから電気を買ってくるという、そのスキームはまだやりづらい。つまり、自分の土地や自分の発電所じゃなくてもよい、新しい電気のあり方です。
 今でもみんでんでは、「この人から買う」ということができます。でも少なくとも、個人は現状「応援」しかできていません。法人の場合は「マッチング」までできていますが、それも含めて「一旦みんでんが買って、みんでんが売る」というものなんです。
 だからそれは、お客さま的にはあくまでも「みんでんから買う」になります。そこを、それこそみんでんのプラットフォームを利用して、お客さまが好きに自分で探して、「あそこから買いたい」発電所を見つけたら、もうその時は「みんでんをスルーして直接繋がる」かたちがよいと思っています。
—みんな電力の姿はだんだん消えていく(笑)。

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梶山 こんなこと言うと、「お前みんでん社員だろう?」と言われそうですが(笑)、今って「みんでんと契約しないとそれができない」という状態ですよね。
 別に必ずしも「小売事業者のみんでんと契約しなくても、それができた方がいいんじゃない?」と思っています。
—梶山さんのお話は、とても「自由」の比重が大きい。
梶山 それは、圧倒的にそう(笑)。あとは自由に加えて「平等、博愛」ですね。
写真(梶山喜規)

梶山喜規

京都大学法学部卒業後、東京電力に入社。15年間の在籍の大半を料金制度部門で過ごし、小売料金戦略策定や託送料金設定等に従事。その後出光興産を経て、2015年から新電力大手エネットにて全面自由化に対応した低圧法人向け電力小売事業に携わる。2019年7月よりみんな電力にジョインし、法人営業および地域新電力立ち上げ支援を手掛けている。

自由を確保し、でもその自由に翻弄されないため、結局大切なのは私たちの意識というお話。来週からは新記事、開始です

 

(取材:平井有太)
2020.01.12 sun.
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