応援金が届く!新しい循環を生み出すバッテリー
読みもの|7.19 Tue

 スマートフォン、パソコン、電気自動車などを例に出すまでもなく、私たちの生活に欠かせないバッテリー。その重要性は、これだけ電力需給が逼迫する状況が起き、日々の営みに支障が出るほどの熱波や寒冷が常態化しつつある昨今において、否応無く増しつつある。
 もともとバッテリーの「顔の見える化」を模索していたUPDATERは、「空気の見える化」でご一緒させていただいたTRAさんから、バッテリー破棄にまつわる問題についてご教示いただいた。バッテリーの世界には社会課題が多く潜み、一歩一歩解決の糸口をつかもうとする中で、気候危機に起因して増え続ける自然災害の復興支援に尽力するYMCAさんの賛同を得て、動き出すプロジェクトがある。
 ポータブルバッテリーの分野で革新的な商品をつくってきたTRAさんの新しいバッテリー1台が売れるにつき、YMCAさんに1000円の応援金が届くのだ。そしてその応援金の送金履歴はUPDATERによってブロックチェーン上に書き込まれていく。
 TRAの代表取締役・東さん、YMCA日本同盟総主事・田口さん、UPDATER代表・大石による鼎談から、この取り組みの根底にあるものが見えてくる。

ーまずTRAさまから、手がけられている事業についてご説明お願いできますか。

TRA  我々はもともと機械部品からスタートしまして、シャッターとか立体駐車場といったものを日本のメーカーさんに納めてきました。それらは基本的には、中国でつくっていました。
 ある時息子と話していて、「バッテリーがこれから伸びそう」ということで、やることになりました。「cheero(チーロ)」というブランドの中で、特に一番よく売れたのは「DANBOARD(ダンボー)」シリーズと「Power Plus 3」シリーズで、これが相当な数、3~400万個ほど売れたんです。正直私たちはインターネットを使った販売方法もよくわかっていない中、バッテリーは徐々に広がっていきました。
 それで今回、新たにバッテリーを出しました。本体はリン酸鉄リチウムイオン電池で、それ自体も新しい、昨年くらいからマーケットに出始めたものです。安全性高く、充電は2~3000回可能、つまり一度購入すると3日に一度チャージするペースで20年くらいは使えます。
 ご存知の通り、リチウムイオン電池というものは勝手にその辺に捨てますと、公害問題が大きくなっていきます。ですから、そこには「なるべく長く安全に使っていただきたい」という、私たちの切なる希望があります。
 また、そもそもの資源の有効活用と、皆さまには災害や節電など、いろいろな局面でぜひポータブルバッテリーを使っていただきたいという、そういった想いもあります。
 さらに私たちは、できるのなら「より社会に貢献したい」と思うわけです。昨今は災害が各地で起きます。売り上げは小さなものではありますが、その一部を助成とする枠組みを決めさせていただきました。これが第一弾となって、今後も第2、3弾と続けていければと思っております。

ーありがとうございます。YMCAさまにも、御団体についてご説明願えますでしょうか。

YMCA 田口 現在はコロナ禍の問題、そしてウクライナ、あとヨーロッパはエネルギーの問題がすごく大きい。化石燃料に戻らざるをえない雰囲気の中で、若者たちがものすごく反発しています。ヨーロッパのYMCAには特に若者が多く、アメリカでも町々にはYMCAがあってそれぞれものすごく大きな組織で、世界120の国と地域で約6500万人が参加しています。
 今ちょうど私はデンマークにいて、4年に一度のYMCAの世界大会に来ています。そこで採択された「ビジョン2030」という、こちらでは「North Star(北極星)」という言い方をする2030年までの道標になる4つの柱があります。
 その柱の一つに、「コミュニティ・ウェルビーイング」というものがあります。地域社会において格差が非常に大きくなってきて、普通の生活さえも困難な方が増えている中でYMCAは、誰もが幸せな地域社会をつくることを目指しています。
 「コミュニティ・ウェルビーイング・ファースト」と言いますが、それこそが「YMCAは社会のために存在している」という、「地域社会が第一」という考え方です。
 新しいテクノロジーで世界、自らの仕事も変わっていっています。青少年にとって、通常の学校教育ではもう間に合いません。若者に寄り添いつつ、新しいテクノロジーや環境に適応、活用しながら社会を変えていくことがインパクトになります。そうして様々な格差と対峙し、どうそれらをなくして、お互いに対等な存在になれるのか。
 ここ4年間の世界の報告を見ていると、各国で気候変動や大きな災害があって、それぞれの地域団体が被災者支援をやってはいます。若者たちは各地で、「そもそもこうならないよう、積極的に気候変動に関わっていくべきだ」という、非常に激しい声を出しています。
 その実現に向けて目標をたてるわけですが、そこでバッテリーとか太陽光発電、そういったことがとても重要になってきます。私はよくミャンマーに行くのですが、むしろ途上国の方がバッテリーとソーラーパネル、LEDの有効な活用について「進んでいるな」と思うことがあります。
 日本でもやっと、最近の電力逼迫の状況があって発電と節電、そしてバッテリーの重要性が、家庭の生活レベルで指摘されるようになってきました。これは、実はチャンスだと思っています。


 災害支援をしてきた立場としても、世界中で支援を必要とされる頻度が高まってきています。それを防ぐ一手としてエネルギーの重要性を改めて確認しました。
 例えばYMCAは、保育園と幼稚園を全国に約80カ所持っています。それらの電気をみんな電力さんに替えて、未来を支える子どもたちと、バッテリーや再生可能エネルギーを使いながら持続可能なかたちとして、一つ象徴的なモデルを構築できたらと思っています。

ー今回のコラボレーションについては、どうお考えですか。

TRA 東 我々もいろいろな助成や試みはしてきましたが、YMCAさんは世界的に6000万人もの会員がいらっしゃいます。しかも若い方々がボランティアなど、災害に対して一生懸命であると。少なくとも、私たちも災害に対しては少しずつでも参画させていただきたいと考えています。
 YMCAさんとは、UPDATERさんが繋いでくださいました。
 もちろんバッテリー業もビジネスではあります。しかし、災害の都度私たちがボランティア参加することも難しいので、できるだけそういったタイミングでも、製品を通じて皆さまの一助になればと願っております。そんな大袈裟な考えでもなく、シンプルに「少しでも社会が良くなれば」という願望があります。

ー社会課題の解決に繋がる事業を手がけるTRAさまと、世界的に大きなYMCAさまを繋げられたのが、UPDATERであると。

UPDATER 大石 もともとYMCAさんには、私たちの「顔の見える再エネ」を使っていただいてきました。その、電気の生産者と顔はわかるようになりましたが、では自分の着ているもの、食べているもの、使っているバッテリーの「どれだけ生産者の顔がわかる?」と考えると、ほぼわからないわけです。
 例えば洋服ではウィグル自治区の人権侵害、食べ物だってどこかで労働搾取が起きていたり、顔の見えない社会自体に課題がたくさん潜んでいます。電気以外にも、どんどん「顔の見える化」を進めていかないと「社会課題の解決はできないんじゃないか」ということで、私どもは事業を進めています。
 バッテリーについては、TRAさんとご一緒することで勉強させていただいています。私たちにはもともと、バッテリーに含まれている希少金属がコンゴの児童労働に悪影響を及ぼしているという問題意識を持っていました。でもよくよく話を伺ってみると、実は廃棄のところにある問題がすごく大きいということを学びました。
 出回っているバッテリーの多くは破棄すらできず、山に捨てられ、土壌汚染となって河川、海に環境の中で循環しない有害な物質が流れ出ます。だから「まず、捨てるところをしっかりしないとダメだ」ということを教えていただきました。
 自分たちが買えるバッテリーは、顔の見えないものが99.9%みたいな、そういう世界です。そこからまずは一歩、支払ったうちの1,000円は確実にYMCAさんの災害支援に充てられる。
 しかもTRAさんはバッテリーの世界において、国内有数のご実績をお持ちの企業です。「すごく重い」「長保ちしない」など、帯に短し襷に長し的なことがよくあるバッテリーにおいて、商品として優れている上に、売り上げの寄付先も明確にする。これは純粋なユーザー目線で、「今すぐ欲しい」と思える商品ができたと思います。

YMCA デンマークにいると、この商品は「本当に”イイモノ”なのか」「コミュニティ・ウェルビーイングを実現しているのか」、など高くアンテナが立っている人が多く、考えさせられます。
 ですので、このTRAさんとのバッテリーを新しい取り組みとして、新しい循環を考えられるタッグを組めることは大変嬉しいことです。それを使いながら、さらなる新しい商品をつくることができたら素晴らしいと思います。

ーそもそもなぜ、TRAさまはこういった社会課題に寄与する製品をつくっているのでしょう。

TRA  我々のような小さな会社でも、できる範囲で「一条の光」と言うか、コンスタントに取り組みを続けていきたいと思っています。社会情勢はどんどん大変になっていきますが、そこには少なくとも、人が生きているわけです。
 人が生きているのならば、相互の協力、互助と言いますか、それらが非常に重要な要素ではないか。できることを少しでも、人のためになることをやりながら、今後も仕事をしていきたいと思います。

UPDATER 大石 今回TRAさんは利益の一部を還元されて、YMCAさんにはご賛同いただき普及のサポートをいただきました。普通「顔の見えない」製品は価格以外に選択肢がなくて、「とにかく安くしろ」というロジックで突き進みます。
 でも今回のプロジェクトは、「みんなの幸せをつくろう」「ウェルビーイングをつくっていこう」という主旨のもと、皆さんの協力が成り立っています。この事例をとっかかりに他の商品にも広げていって、「こういうコンセプトのものが売れる」という実績をつくりたいと思います。
 このような取り組みを社会に根付かせるためにも、今回の協業の成功は大切です。

YMCA 田口 デンマークの、今大会のテーマは「IGNITE(イグナイト)」、それは「光を灯す」という意味です。YMCAは世界で教育や生活支援をしています。子どもたちや会員の皆さまが輝けるよう、そのことで社会からYMCAが必要とされながら、存在していきたいと考えています。
 今日お2方のお話を伺っていて、ご自分の商品や提案していることで、お客さまや地域の方々、ユーザーの皆さんを輝かせ、その輝きの光によって自らも照らされるということだろうと受け止めました。
 私たちも、そうして一緒に輝いていけたら嬉しいと思います。

TRAさんのバッテリーは、コチラをご覧ください
https://cheero.shop/pages/donation

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記事を作った人たち

タドリスト
平井有太
エネルギーのポータルサイト「ENECT」編集長。1975年東京生、School of Visual Arts卒。96〜01年NY在住、2012〜15年福島市在住。家事と生活の現場から見えるSDGs実践家。あらゆる生命を軸に社会を促す「BIOCRACY(ビオクラシー)」提唱。著書に『虚人と巨人』(辰巳出版)など